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2007年10月05日(金) 01時57分

10月5日付 編集手帳読売新聞

 英語の青い薔薇(ばら)「ブルーローズ」には、「ありえないこと」という意味があるという。薔薇は青系統の色素をもたないためだが、ありえないはずの花もいまは遺伝子の組み換え技術で咲く時代である◆最新の金融技術を駆使すれば、もしや財布に“金色の薔薇”も咲くのでは…。低金利にあえぐ被害者のなかには夢想した人もいただろう。詐欺まがいの手口で会員5万人から総額1000億円を集めていた会社が警察に摘発された◆「エル・アンド・ジー(L&G)」(東京・新宿)の触れこみでは、会員に元本を保証し、年36%の高配当を約束し、「使っても減らない」独自の通貨まで与えるという。打ち出の小槌(こづち)をお分けします、と言うに等しい、どこからどう見てもありえぬ花だろう◆「日の下に、新しきものなし。すべては繰り返しにすぎない」とは名探偵シャーロック・ホームズが「緋色(ひいろ)の研究」で語った言葉だが、L&Gのような怪しい利殖商法も繰り返し現れては後を絶たない◆今回の「円天」と称する独自通貨がそうであったように、怪しい花売りはいつも、狙った獲物に過去の繰り返しと気づかせない新奇な装いで登場する。被害が広がる前の先手先手の捜査と、何よりも甘言に乗せられない用心が要る◆この世に金色の薔薇はない。ペテン師よけの呪文(じゅもん)を胸に刻む。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20071004ig15.htm