記事登録
2007年10月05日(金) 08時00分

【社会部発】ルームシェア殺人 少ない共通点、重荷に産経新聞

 「首を絞めて殺し、灯油をまいて火をつけました」。警視庁小金井署西国分寺駅前交番に1人の若者が姿を現したのは、9月20日の夕方だった。

 その数時間前。東京都国分寺市のマンション一室から火の手が上がり、焼け跡から首に電気コードを巻きつけられた細井悌司さん(32)が遺体で見つかった。

 殺人の疑いなどで逮捕された坂本貴尚容疑者(21)は、細井さんとルームシェアで同居する間柄だった。年齢が一回り違い、共通点が少ない2人はどう結びつき、なぜ事件に至ったのか−。

 坂本容疑者は平成17年に室蘭工業大学(北海道室蘭市)に入学したが、「声優になりたい」と上京を決意。インターネットの掲示板でルームシェア相手を探した。「こんな部屋でよければ」。細井さんに誘われ、昨年7月に同居を始めた。

 2人を知る男性は「細井さんはきちんとした生活をさせないと親御さんに申し訳ないという気持ちがあったのだろう。よく面倒をみていた」と振り返る。

 坂本容疑者にとって東京は幼なじみもいない見知らぬ土地。アルバイト先も細井さんが働く旅行代理店に求めた。今年4月に大学に休学届を提出。渋谷区の声優専門学校に通い、夢の実現に向けて歩み始めた。

 だが、細井さんは事あるごとに生活態度に口を出し、暴力を振るうこともあったという。知人男性も、坂本容疑者がしかりつけられる姿を度々目にしており、「(細井さんは)とにかく厳しかった…」と肩を落とす。

 自他に厳しい細井さんに対し「まじめで悪く言えば言いなりになるタイプ」(知人男性)の坂本容疑者。家でも勤務先でも顔を合わせ、1日の大半をともに過ごす2人だが性格や趣味の共通点はなく、東京での生活はやがて重荷となっていったようだ。

 そして9月20日早朝。坂本容疑者は寝ていた細井さんの首を電気コードで絞め、室内に火を放った。前夜に激しく口論しており、捜査幹部は「衝動的犯行だろう」と口論が引き金とみている。「生活から抜け出したかったんです」。警視庁の調べに、坂本容疑者は力なく答えた。

 一時の衝動が、大学を休学してまで追い求めた夢を打ち砕いた。その夢を実現させてやりたいと手を挙げた細井さんの人生も奪った。

 選択肢はほかになかったのか。「相談してくれれば方法を考えたのに…」。知人男性のつぶやきが胸に残った。(前田明彦)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071005-00000077-san-soci