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2007年10月05日(金) 11時45分

愛犬の去勢手術(1)〜ある決断の朝ツカサネット新聞

そのころずっと考えていた。
コウの去勢手術について。

コウとは、今、私の飼っている犬の名前だ。生後6か月を過ぎれば手術は可能なのだが、6か月頃のコウはまだまだ小さくて、こんな仔犬にタマタマを取る手術の必要があるだろうかと思い、家の中で飼うのだし、外へ出たってリード付だ。可愛い子ちゃんがいてもコウが悪さするとは考えられなかった。だから、私はコウには生まれたままの姿でいて欲しいと思ってきた。人間が勝手にどうこうしていい領域ではないと思っていたのだ。

去勢手術をすると、オスはとても大人しくなるという。それまで言うことを聞かなかった暴れん坊も、手術後は嘘のように大人しく扱いやすい犬になるというのだ。

私は、その話も聞いていやだった。
人間側の言い分で、勝手に飼いやすい犬に改造してしまっていいものだろうかと。

コウは、牧羊犬ボーダーコリーとドックレースで活躍するウィペットのハーフだ。力は強く、足が速い。だが、心はとっても穏やかで、どんな小さな犬相手でも、必ず怖がって後ずさりするし、猫にも勝てない。唯一向かっていく相手はハトだけである。

家の中でも、それはそれはイタズラだが、そのイタズラっぷりがまた可愛いと思えるのであって、“手に負えない”なんて思ったことなど一度も無い。コウはずっとこのままでいい、そう思ってきた。

幸い、コウは奥手だったのか、なかなか盛ってこなかった。

だが、とうとうコウにも盛りがやってきた。
筒型のクッションを両手に挟み、そのクッションにいろんなものをひっかけて、腰を振っているではないか。

私はなんだか複雑な気持だった。
赤ちゃんだと思っていたコウが立派なオスの成犬になったんだという気持ちと、私ではなく、臭いをぷんぷんさせているメスの後を付け回す犬になってしまうんだろうか…と。

それから、母と何度か話した。
母はコウが腰を振っている姿を見て「あれじゃぁ、すぐ手に負えなくなるわよ。さっさとタマをとって大人しくさせないと。これから家の中では飼えないわね。外に出さないと」なんて言い出したのだ。

私は、コウとはずっと家の中で一緒に過ごしたいと思ってきたし、これからいきなり外へ出すなんて考えられない。だが、母はこの家の権力者だ。母がコウは外、と決めたらそうなってしまうだろう。

私は、いろいろな人に相談し、悩み、考えていた。
一体、コウにとってはどちらが幸せなことなのだろうかと。

だが、あの朝、コウがクッション相手に盛っているのを見て、“楽にしてあげよう”突然そう思った。

とってしまえば、もう盛ることはない。
血気盛んに腰を振っても、想いを遂げられることは一生ないのだ。だったら、とってあげて、そんな気持ちにならないほうが穏やかに過ごせるのではないかと。

病院に電話すると、先生は「じゃぁ、今日これからやっちゃおうか」と張り切った声を出していた。私は電話を切って「コウ、手術してタマとっちゃうんだよ。ごめんね」そういうと涙が溢れてきた。

コウは何もわからないから、いつものように嬉しいといって私に飛び掛ってくる。

私の決断は本当に正しいのだろうか?
唯一正しいと言い切れるとしたら、とってしまった場合、タマタマがガンになることがない、ということだ。

コウを車に乗せて、病院へと向かった。
コウはいつものドライブと同じはしゃぎ様だった。
だが、診察台に上がると、耳を垂らし、体は小刻みに震えていた。そんな姿を長くみていたら、また涙が出てしまう。私はなるべく簡単に「コウ、頑張ってね。後でまた来るからね。バイバイ」といって病院を後にした。

コウが来てから、家にコウがいないというのは初めてである。こんなに静かで寂しいものだったのか…。
コウは今どんな気持で病院にいるのだろう。

夕方、迎えに行って会うコウは、もう生まれたままのコウではない。やっぱり、私は、まだ手術を受けさせたことを後悔していたのだ。                  (つづく)


(記者:綺麗なお姉さん)

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