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2007年10月05日(金) 01時37分

「円天」商法 甘言で「利殖願望」につけ込んだ(10月5日付・読売社説)読売新聞

 「甘言には惑わされるな」という戒めを、忘れてしまうのだろうか。

 警視庁が東京の健康商品販売会社「エル・アンド・ジー」(L&G)の本社などを一斉捜索した。元本を保証し、不特定多数から出資金を受け入れた出資法違反容疑だ。

 「1口100万円の協力金を預けて会員になれば3か月ごとに9万円の配当を支払う」「1年後の満期には元本を返金する」とうたい、約5万人から総額1000億円もの資金を集めた。

 協力金の額に応じて「円天」と名付けた独自の“通貨”を発行し、インターネット上の「円天市場」やバザー会場で様々な商品と交換できる。そんな目新しい勧誘の仕掛けも用意していた。

 常識的に考えて、こんな有利で、しかも元本割れしない商品など、あるはずがない。今年に入って配当が滞り始め、ついに破綻(はたん)した。当然の結末だ。

 高級ホテルでの説明会では、芸能人のショーに豪華料理もついた。被害者は高齢者と主婦が多いというが、こんな舞台装置にも幻惑されてしまったのか。

 L&Gの会長は1970年代からマルチ商法にかかわってきたという。こうした詐欺まがいの商法では、摘発された会社の“残党”がまた同様の事件を起こす例が多い。今回もそのパターンだ。

 警視庁は詐欺の疑いも強いと見て追及している。組織的な犯行とすれば、より刑罰の重い組織犯罪処罰法の組織的詐欺罪の適用も可能だ。悪循環を絶つには厳罰で臨むべきだ。

 古手の会員が報酬目当てで親類や知人など身近な人を誘い込み、被害が広がった。典型的なマルチ商法だ。積極的に勧誘した会員の責任も重い。

 今年1月に摘発された健康食品会社は「東欧の不動産事業に投資する」「半年で出資金が倍になる」と宣伝して500億円以上を集めた。この事件では、被害を拡大させた古手会員も組織的詐欺罪に問われた。不正に関与した以上、刑事責任を追及されても仕方がない。

 今年7月にも、「フィリピンでのエビ養殖事業に投資すれば1年で2倍の配当が得られる」などと偽り約600億円を集めていた投資会社が、警視庁の強制捜査を受けている。

 誘いの文句は違っても、だましの基本的な手口はほとんど変わらない。「うますぎる話には乗るな」と、警察や各地の消費者センターでは、繰り返し注意を喚起してきた。

 それでもこうした事件が絶えない。背景には、超低金利時代での人々の利殖願望もあるのだろう。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20071004ig91.htm