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2007年10月05日(金) 10時05分

3紙がネット事業で提携 新聞に明日はあるかツカサネット新聞

このほど日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞の3紙が提携して、インターネット上で主要な記事や解説を読み比べできるサイトを2008年から始めることに合意した。販売に関してもお互いに過疎地などでの融通を計るようにするという。

犬猿の仲であったはずの3紙が急きょ提携した裏には、売上げ部数の深刻な低下がある。公称発行部数は、読売が1000万部、朝日が800万部、日経が400万部だが、ここ数年実売部数は急激に下がり、今やその6割から7割しかないのが公然の秘密になっている。

筆者が実際の新聞販売に関わる複数の人から聞いたところでは、新聞販売店によっては売上げの半分近くが、新聞社からノルマとして押しつけられた、いわゆる“押し紙”によって消えているのが現状だ。そのため、販売店の数は毎年1割くらいずつ減っており、このまま進むと数年のうちに戸別配達制度そのものが崩壊するといわれている。

これに危機感を抱いた3つの新聞社が、「新たな読者サービス」と称して徒党を組むことになったのが事の次第だが、果たしてこの提携が、この3紙の売上げ退潮に歯止めをかけるきっかけとなりうるだろうか。

新聞離れが進んだ原因は、インターネットの普及が最大の要因であり、若者の活字離れ、可処分所得の減少などにもよるとされるが、事の本質は違うところにあるはずだ。

全国紙1部の情報量は、およそ25万字あるから、文庫本2冊に匹敵する。これを毎日届けられても、普通の勤め人なら全部に目を通すことはほとんど不可能である。読む分量が40ページのうちのせいぜい1割程度であるなら、読者は10倍の対価を支払っていることになる。

3紙の提携サイトにより、その主要記事の項目がわかるなら、必要な記事が掲載されている新聞だけを1部買えばすんでしまう。3紙が提携した目的のひとつは、ニュースの要約を見せることによって、新聞本体を読むように誘導することを目的としているが、定期購読者の獲得という目的だけに限れば、逆効果になるはずだ。

商売というのは不思議なもので、一見損をするようなやり方が結局お客を捕まえることがある。ヤフーと提携した毎日や、マイクロソフトと提携した産経のように、ウェブの速報性に重点を置き、紙媒体以上の内容をネットに盛り込む戦略のほうが、その新聞自体に親近感や信頼感を持たせることになるから、かえって定期購読の増加につながる可能性がある。

大手の新聞がよくやるように、「紙面を一新」して、さまざまな情報を盛り込めば盛り込むほど、読者は逆に離れていく。「家族みんなで見るために作られた番組は、誰も見ない」というパラドックスと同じ原理だ。

インターネットなら必要な情報だけを検索し、要点をつかむことができるだけでなく、その場でスクラップしておくこともできる。関心のあるテーマについて深く知りたいなら、雑誌や単行本を読めばよい。

新聞は、現場で記者が取材した一次情報であり、それを誰かが加工した二次情報である無料のネット情報は信頼できないという人が多い。しかし、新聞社が営利企業である以上、自社や大手スポンサーに都合の悪い事実はたくみにカットされるものであることを、読者はすでによく知っている。

一部の「情報エリート」が「編集権」という情報加工の裁量権を一手に握り、「情報貧民」に分け与えてあげるという構図は、とうの昔に崩れた。今は、むしろ情報の受け手の側が主導権を持ち、自己責任で情報の価値を判断し、その対価を支払うという「情報民主主義」の革命が進行している。情報の発信者と受信者がほぼ対等の立場に立つようになった。

さらにブログやソーシャルネットワーキングの普及によって、ひとつのテーマを平等に議論できる快感を人々は知ってしまった。これらのメディアなら、記事に対してコメントを送っても、何の挨拶もなくボツにされるということはない。発表の場が無限にあるのだから、ネットの世界はレスポンスすること自体に意味があるのだ。

新聞が生き延びる道は、他のメディアと融合すればよいというほど単純なことではない。カリスマブロガーという名の情報調理人が市井にあふれている今日、顔の見えない記者や編集者が権威とか看板だけで記事を載せても、ありがたがって読む人はいない。各紙ごとの特徴を打ち出し、時には自社や業界に不利な事実でも、自由に報道する権限を記者や編集者に与える以外に道はない。販売方法や流通形態も根本から組み立て直す必要がある。

しかし、残念ながら、これは「いい思い」あるいは「楽な思い」をしてきた集団にとっては、痛みを伴うたいへんな方向転換である。また、これは広告スポンサーを持ち、強大な組織を維持しなければ自由な活動ができないという自らのパラダイムの否定にもつながるから、実現は極めて困難である。ひとつの役割を終えたビジネスモデルが消えていく宿命なのかもしれない。


(記者:竹下 光彦)

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