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2007年10月04日(木) 00時00分

米通信政策が大転換、キャリアー以外も携帯参入読売新聞


新政策を伝える米FCCのニュースリリース

 携帯電話端末とそれに付随するサービスを根本的に自由化する、通信史上における画期的な政策転換がこのほど、米国で決定された。これによりグーグルなどIT企業がモバイルビジネスに本格参入し、斬新なサービスの実現が期待される。日本を含めたモバイルサービスの世界的な自由化を促す可能性も出てきた。

アナログ700MHz帯を競売

 この新政策とは、7月31日に米FCC(連邦通信委員会)が採択した「無線インフラのオープン・アクセス・ルールズ」と呼ばれるもの。米国では、わが国に先立ち09年にデジタルテレビ放送に全面移行するのに伴い、アナログ放送用の700MHz帯の電波が国に返還される。この周波数帯は障害物を迂回して遠くまで届くため、モバイルサービス用の無線インフラには最適なのだ。

 FCCではこの帯域を来年1月ごろをめどに競売にかける。対象は全部で60MHz。その約3分の1に当たる22MHz分の帯域については、「落札した電波で作るモバイルネットワーク(無線インフラ)には、そこで使う端末の機能やアプリケーションに関し、いかなる拘束も課してはならない」という条件をつける。また、これまで携帯端末は1つのキャリアーでしか使えなかったが、これをどのキャリアーのサービスでも利用できるようにする。以上の規定が「オープン・アクセス・ルールズ」である。

キャリアーによる端末、アプリの制限を撤廃

 この政策には“規制による自由化”という逆説的な側面もある。これまでも、モバイルネットワーク上の端末やソフトを拘束する規制・法律は存在しなかった。しかし実際は、キャリアーが無線インフラの独占力を行使し、ユーザーが使う端末やアプリケーションの自由度を制限してきたのだ。そこで今回の「オープン・アクセス」では、逆に「そのような制限をしてはいけません」という規制を設けることで、端末やソフトの自由化を促すわけだ。

 そもそもキャリアーはなぜ、これまで端末やアプリの自由度を制限してきたのか。それは、勝手なものを作られると、自らのビジネスモデルが危うくなるからだ。例えば「Wi・Fi」と呼ばれる無線LAN機能。これはアップルのiPhoneなど、ごく一部の例外を除いて、米国の携帯電話には装備されていない。なぜなら、これがあれば、携帯電話ユーザーはインターネットに接続し、無料コンテンツをダウンロードしたり、無料電話のスカイプを使ったりする。そうなると、音楽ダウンロードを始め、キャリアーの収入は大幅に落ち込んでしまうからだ。

活発だったグーグルのロビー活動

 これを防ぐため、キャリアーは端末やソフトの開発に縛りをかけてきたが、それに異議を唱えたのがIT業界である。中でもグーグルは豊富な資金力を武器に、連邦議会で活発なロビー活動を展開。その結果、FCCが「オープン・アクセス」政策を採択した、といっても過言ではない。

 グーグルが「オープン・アクセス」を推進したのは、それによってモバイルビジネスの主導権を奪うためだ。グーグルは、モバイル市場を大手キャリアーに牛耳られたままでは、将来の基幹事業で思い通りのサービスを提供できない。こうした事態を避けるために政府による規制の力を利用したといえるのである。

 もう1つの狙いは、キャリアー業界内の競争を促し、AT&Tなど大手キャリアーの力を弱めることだ。これを実現するために、来年1月の電波競売には、グーグルやイーベイなどIT企業自身が入札に参加すると見られている。競売で電波を勝ち取ったIT企業、中でもグーグルは当面、取得した電波を中小キャリアーにまた貸しする。そのうえで自由なアプリケーションを提供し、モバイル広告収入を稼ぐという狙いだ。しかし、いずれはこうしたIT企業が、従来のキャリアーをバイパスし、インフラからソフトまで垂直統合型のモバイル事業を展開する可能性が大だ。

 米国の電波政策は日米競争政策イニシアチブなどを通して、いずれ日本の政策にも影響を与える。日本でも2011年のアナログ放送停止後、様々なIT企業が電波を取得し、独自のモバイル事業を展開するようにならないとも限らない。(小林雅一=KDD総研リサーチフェロー/2007年9月24日発売「YOMIURI PC」2007年11月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20071004nt08.htm