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2007年10月02日(火) 10時12分

ある精神科医の「おいそぎ診察」システムツカサネット新聞

「3時間待ちの3分診療」というのは、現代の医療システムの問題点を端的にあらわした言葉であるが、これは精神科の診療でも変わるところではない。精神科というのは人の心を診るものであるから、患者と医師との間に対話と信頼関係が成立するのが必須の条件であるはず。なのに、現実では医師は短時間で患者をさばくことに追われているようだ。

精神科の診察は内科などの診察と違って、診察料のほかに精神分析料としてさらに代金を上積みして請求することが可能となっている。であるから、精神科医は診察にその代金相応の時間をかけるかというとそうでもなく、やはり内科の診察と変わることのない3分間診療で済ませている。

診療時間は3分でも、せめて待ち時間の長さを緩和させようという意思はあってか、たいていの精神科クリニック・病院では診療時間予約制度というものをもうけている。けれども、この予約制度というものもくせものである。仮に、どうしても込み入った相談事のある患者でも、長く話をしようとすれば、次の予約時間を待つ患者に迷惑がかかるということで、話を手短に打ち切られてしまうこともなきにしもあらずなのだ。

私が今春から通院することになった、名古屋市中村区にある中村公園メンタルクリニック(佐藤信幸医師)では予約診療制度というものをとっていない。かといってやってきた順番にみるという旧来のおおざっぱな方法をとっているのでもない。このクリニックの特色は「おいそぎ診察」制度と名づけられたものにある。

患者はふつうの診察か「おいそぎ診察」かを、診察券を出す際に自分で選ぶことができる。「おいそぎ診察」というのは、症状が安定しているため薬を調整したり相談事を聞いてもらう必要がない患者が簡単な診察で済ませてもらってよいのだが、その一方であとから来ても一般診察を選んだ人たちより先に見てもらえるため待ち時間が短くて済む、という便利な制度なのだ。

ふつうの診察を選んだ患者は診察までに平均1時間以上を待たなければならないが、その代わり、医師は手短に診察を切り上げようとすることなどなく、実に丁寧に患者の話を聞き、病状への対処法などを的確に説明してくれる。長い時間を待った甲斐があるというものである。

一般の精神科医療に普及している予約診療制度には、その予約時間に患者が万障繰り合わせて出かけなければならないというデメリットもある。その点、この中村公園メンタルクリニックの予約なし「おいそぎ診察」は、実によく患者のために考えられた制度であると私には思われる。

このような画期的な診療体制が広く全国的に普及すればいいと考え、記事で紹介してみることにした。もっとも、精神科医のなかにはそもそも患者との対話というか、患者に対して病状その他の的確な説明そのものができない方々も少なくないように見受けられる。「おいそぎ診察」制度が真に効果を発揮するには、インフォームド・コンセントの精神をきっちりと見につけた医師であらねばならないと思う。


(記者:千地有井)

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