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2007年10月01日(月) 13時21分

命をかけた「戦場記者」の死を忘れないオーマイニュース

 それまでは、ただの遠い国の出来事だった。だが、この事件を境に、一気に身近な大事件となった。

 ミャンマー軍事政権による反政府デモ弾圧を取材中だった映像ジャーナリストの長井健司記者が9月27日午後、ミャンマー軍事政権の治安部隊員による銃弾に倒れ、死亡した。当初は「流れ弾に当たった」との報道だったが、その後の報道では、どうやら至近距離から「狙い撃ち」されたようである。

 「丸腰の人間になんてことを……」と思ったが、かの地では「神の子」と言われて崇められる僧侶にさえ銃口を向ける連中なのだから、記者一人撃ち殺すことくらいたやすいことなのだろう。戦場記者の死をきっかけに、その戦場がクローズアップされるとはまさに皮肉な話だ。

 さて、戦場記者というと思い出す人間が3人いる。

 1人はロバート・キャパ。言わずと知れた戦場記者のパイオニア的存在で、従軍記者から始まり、世界中の戦場を転々とし、戦場の戦慄感あふれる写真を撮り続けた「カリスマ戦場記者」である。

 もう1人は一ノ瀬泰造さんだ。ベトナム戦争やカンボジア内戦を追いかけた記者で、彼を題材とした『地雷を踏んだらサヨウナラ』という映画もある。

 そして3人目は橋田信介さん。日本の戦場ジャーナリストのトップランナーとして活躍した人で、主にアジアの戦場を撮り続けた。特にイラク戦争での活躍は記憶に新しい。

 今挙げた3人には共通点がある。お分かりの方も多いとは思うが、全員戦場で非業の死を遂げている。地雷を踏んだキャパ。ポル・ポト派に「処刑」された一ノ瀬さん。バグダッドでゲリラに襲撃された橋田さん。まさに「戦場記者らしい」最期だった。そして、今度は長井さんまで……。

 僕達一般市民からすると、「何を好き好んで死にに行くんだろう」などと思う反面、そんな僕達が世界の「醜い部分」を見られるのは彼らの尊い犠牲の上に成り立っていて、感謝の気持ちがあるのも事実である。

 それにしても今回の事件で、ミャンマーの「圧政」に見てみぬ振りをしていた日本政府も重い腰を上げようとしており、一般市民の間でも、邦人が殺されたということで一気に注目するようになった。

 中国という“パトロン”の下、自由が欲しいという「普通の人々」を弾圧し、時には平気で命を奪うミャンマーという国の異常さを、長井さんは文字通り「命がけ」で僕らに教えてくれた。

 そんな長井さんに報いるために、僕らが最低限しなければならないことは、そんな難しいことでも崇高なことでもなく、ただこの事件を、こんな事件を起こした軍事政権を心の底から憎み、そしてその為に命を落とした1人の戦場記者を忘れずにいることだろう。それが、長井さんへの一番の供養になるのではないだろうか。

 そして、今世界中の戦場で活躍している現代のロバート・キャパや一ノ瀬泰造達に、「彼らのようになるな」と祈るばかりだ。

 もっとも、一番いいことは、世界中から戦争がなくなり、彼らの仕事がなくなることなのだが……。

(記者:小澤 健二)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071001-00000003-omn-int