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2007年10月01日(月) 13時16分

そのとき自転車は「凶器」と化したオーマイニュース

 その日の朝も、いつものように6時過ぎに目が覚めた。

 窓越しに見える空には雲ひとつない。そして、暑くもなく寒くもない気温だ。重い障害を負っている私の身体にとっては申し分ない日で、1年のうちこのような日はあまりない。そして、このような日は妻と外出をすることが多い。

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 朝食をとっているときのこと。妻に「今日、天気がいいからどっか行こうか。映画でも観に行くか?」と言ったところ、妻も「いいね。行こう行こう!」。話がまとまった。

 天気の悪いときや遠出をするときは車を使うが、その日のように天気の良いときは妻に車いすを押してもらい散歩がてら出掛ける。映画館は私たち夫婦が住んでいるところから車いすを押して行っても20分もあれば行ける。しかし、それにはJR線の「ガード下」をくぐって行かなければならない。

 そのガードの下は片側一車線の相互通行の車道があり、両脇には高さ2メートルほどのところに鉄の柵が付いた歩道がある。そして、両側面の壁にはガード下の暗い雰囲気を消すためだろうか、小学生か中学生が描いたと思われる大変かわいらしいメルヘンチックな絵が描かれている。

 私たちはそのガードの入り口の坂を下り、数十メートルの平地を進んだ。そして出口の上り数メートルのところに差しかかったときだった。

 いきなり猛スピードで自転車が飛び降りてきて、私のひじと車いすに接触した。その自転車は私の横を通り過ぎて止まり、乗っていた少年は私たちのほうを振り向きはしたものの、謝罪の言葉はなし。頭を下げることもなく、また前を向き走り去って行った。一瞬の出来事だった。

 もちろん、接触したことにも驚いたが、もうひとつ驚いたことがあった。それは、妻が大声をあげたことだ。

 私の妻は引っ込み思案。初対面の人には自分の思いや主張も言えず、ただただ人の話にうなずき、相づちを打つくらいしかできない性格である。しかし、妻はその少年に向かい大声で「危ないじゃない!」と怒鳴り散らした。思い返すと、今でも信じられない。いつもはのんきな妻だが、あのときは私と自分の身によっぽどの危険を感じたのだろう。

 そのガードの入り口と出口には「自転車は降りてください」と標識が立ち、路面には表示もしてある。私はその後、その近くに住んでいる方から、そのガード下では数十年前に死亡事故も起きていたことを聞かされた。

 幸いそのときは私も妻もけがしなかった。しかし私は納得が行かなかったので、家に帰ってから警察署に電話で問い合わせた。少年がぶつかってきたことにもびっくりしたが、警察署員の電話対応の悪さにも驚かされた。

 「あそこのガード下の標識、表示は市役所の職員が設置したもので私たちは何もしていないんです」

 まるで人ごとのようにぶっきらぼうな話し方だった。私はその言葉に腹が立ち、さらに聞いてみた。

 「それじゃ、あなた方はこの件で今現在、何か検討しているのですか」

 そして返ってきた言葉は、私をがく然とさせた。

 「ま、今のところは、その近くの交番にいる警官を立たせておきますよ」

 そんな、警官が立って24時間態勢で監視なんかできるわけがない。こんなやる気があるのかないのか分からない警察に、自分たちの命と財産を守ってもらえるのかと不安になり、「これじゃ、えん罪事件なんかもなくなりゃしないな」とも思ってしまった。それは私の考え過ぎだろうか。

 その後、ガード下には「自転車を降りてください。XX警察署」と書いてある看板が立てられた。さらに、ときどきであるが、警官が立つようになった。私の電話がきっかけになったのだろうか。

  ◇

 私は妻が運転する自家用車で外出する(うちの車は後部座席を外し、車いすのまま私が乗れるように改造してある)。そのときにしばしば目にすることであるが、普通の車道であっても自転車に乗っている人のマナーにはあきれ返ってしまう。私は後ろに乗っていて常にひやっとすることが多い。

 まず、自転車に乗りながら電話をしている。そして「猛者」になると、メールを打ちながら自転車で走っている。そのような場合、蛇行運転していることが多い。さらに、iPodなどで音楽を聴きながらの運転。自分だけご機嫌なような顔つきで自転車を走らせている。

 鼻歌を歌いながら自転車を走らせるのは、その爽快(そうかい)感は理解できる。私も過去はそうだった気がする。しかし、イヤホンを付けながら走らせるのは、いかがなものか。そのようなことをすれば、ほかの車やバイクのエンジン音は、おそらく聞こえないと思う。さらに、クラクションの音はどうなのか。あれだけの音量のものは聞こえているのだろうか。

 車がすれ違えないくらい狭い道路であっても、中高生たちの自転車は横に2・3列になり、楽しそうにはしゃいで走っている。こういう光景もよく目にする。下校時に今日学校であったことを親友とおしゃべりするのは、さぞかし楽しいだろう。しかし、もう幼児ではないのだからTPOはわきまえてほしい。

 自転車は道路交通法上では軽車両として扱われ、左側通行である。しかし、そんなことはまったくお構いなしだ。もし、自動車と自転車と接触して、自転車側がけがしてしまったとする。それが自転車側に100%責任があって目撃証人がいたとしても、「自動車側の前方不注意もあった」などと言われるケースもあると聞いたことがある。

 それよりも、何よりも自動車側の運転手はいくら罪が軽かろうが、人にけがを負わせてしまったという罪悪感に一生さいなまれるだろう。これが死亡事故にでもなればなおさら、である。

  ◇

 今回、私はここに自転車に対して否定的なことばかりを書いた。しかし私は、自転車を否定するのではなく、自転車に乗り走っている人たちに「モラルとマナーと危機意識」をもっと持ってほしい、と願うのだ。

 自転車は免許不要で、老若男女がちょっとした買い物や散歩、気分転換のサイクリング、また健康増進のをするのにぴったりなものだ。そして、身の回りにあるものは、自転車に限らず使い方を間違えると「凶器」と化すことを、私はあらためて考えさせられたのだ。

(記者:青柳 茂雄)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071001-00000001-omn-soci