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2007年09月18日(火) 09時36分

<リタリン>大量処方で幻覚 25歳男性自ら命絶つ 名古屋毎日新聞

 乱用の広がりが明らかになった向精神薬「リタリン」。依存症や幻覚・妄想など重い副作用に苦しむ人が増えている。名古屋市の小原幸子さん(54)の長男毅(つよし)さん(当時25歳)は、医師が十分な診察もせずに処方したリタリンを服用し続け、依存症になった末に2年前、自ら命を絶った。小原さんは「毅と私の苦しみをこれ以上ほかの人に味わわせてはならない」と訴えている。【精神医療取材班】
 毅さんがリタリンを服用し始めたのは19歳のとき。アメリカンスクールを卒業後、就職した地元のIT(情報技術)企業で語学力とパソコンの技術が認められ、すぐに多くの仕事を任されるようになった。週3〜4日は泊まり込みの勤務。体の不調を訴え、名古屋市内の精神科クリニックで診察を受けた。医師はうつ病と診断し、リタリンを処方した。
 毅さんの表情はいきいきとし、元気を取り戻したかのように見えた。しかしすぐに不眠や体のだるさを口にし、服用量が増えた。別の病院やクリニックを次々掛け持ち受診し、リタリンを大量に集めるようになった。会社も休みがちになり、半年後に辞めた。
 不審に思った小原さんが、処方せんを出した病院に問い合わせると、医師は「ナルコレプシー(睡眠障害)だから処方した」と答えた。だが、診断に必要な脳波検査をしていなかった。医師は「本人が『東京の病院で検査した』と言ったので、それを信じて出した」と話した。「毅には生来、そういう病気はない。精神科医が信じられなくなった」
 小原さんがリタリンの服用をやめるよう注意すると、毅さんは「医者が処方した薬を飲んで何が悪い。殺すぞ」とわめき散らし、ナイフを振りかざした。同居中の女性と大量に薬を服用して自殺を図ったり、「書店の店員が笑っていたから」と妄想を抱き、バタフライナイフで本を切り裂いて逮捕されたこともあった。「優しくて明るい性格が、180度変わってしまった」と言う。
 毅さんは05年1月、名古屋駅前のホテルで首つり自殺した。1人暮らしをしていたアパートには、リタリンの空き瓶や、病院やクリニックでもらった大量の処方せんが散乱していた。30以上の医療機関が毅さんにリタリンを出しており、処方を拒否したのは1カ所だけだった。
 亡くなる5日前には、初診だった市内の国立病院が1日8錠ものリタリンを処方していた。効能書きでは、適応症だとしても1日2〜3錠と定められている。「なぜ大量に処方したのか」。小原さんは電話で理由を尋ねた。担当医師は「求めに応じて出してしまった」と釈明した。
 毅さんが生前、愛用していたパソコンには「リタリンをやめるためにはどうすればいいのか」と書き残されていた。「依存症というアリ地獄から必死に抜けようとしていた。毅のように苦しむ人が増えないよう、私は訴え続ける。それが毅から与えられた宿題だと思う」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070918-00000012-mai-soci