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2007年09月17日(月) 03時07分

<石炭じん肺訴訟>年金記録漏れで時効の恐れ…茨城の77歳毎日新聞

 社会保険庁のミスで就労証明が得られなかったため、北茨城市の男性(77)が昨年4月、「東日本石炭じん肺訴訟」(水戸地裁)の1次提訴に参加できなかったことが分かった。年金記録漏れが社会問題化した後の照会で記録が見つかり、先月下旬に第4陣として提訴したが、時効の壁に阻まれる恐れがあるという。同市の炭鉱で働いてじん肺になり、通院生活を送る男性は「なぜ最初から真剣に照会に答えてくれなかったのか」と憤っている。
 炭鉱を経営した会社は既に倒産しているため、同訴訟では国が旧じん肺法で対策を定めた後も監督を怠ったことに対する賠償を求めており、原告団に加わるには同法が成立した60年4月以降、炭鉱で働いた証明として年金記録の提出が必要。
 男性は62年8月から8カ月間、北茨城市の炭鉱で働いており、訴訟への参加を希望した。しかし、社会保険事務所に86年までに3回記録を照会したが、窓口で「そのような会社は存在しないし、年金も納めていない」と突っぱねられた経験があり、一度はあきらめた。ところが、改めて照会したところ8月に記録が見つかり、約1100万円の賠償を求めて訴訟に加わった。
 しかし、国家賠償では民法の規定が適用され、請求権は3年で消滅。国の行政不作為による賠償責任を認めた04年4月の筑豊じん肺訴訟最高裁判決が国への請求が可能と認識できた起点とすると、今年4月で時効が成立したことになる。このため、原告側弁護団は「男性の提訴が遅れたのは年金記録の紛失のせいで、その責めは国が負うべきだ」と主張し、和解に応じるよう要求している。
 男性は89年にじん肺と診断されるまで入退院を繰り返し、現在は続発性気管支炎を併発して通院生活を送っている。「粉じんが舞う中であれだけ働いたのに。記録が抜け落ちていた説明もなかった」と話す。茨城社会保険事務局は「男性が照会した当時は記録が紙の時代で、現在のように(オンラインで)整備されていなかった。探せなかったことは申し訳ないと思うが、原因は何とも分からない」としている。【山崎理絵】
 【ことば】東日本石炭じん肺訴訟 茨城、福島両県の炭鉱で働き、じん肺にかかった患者52人(故人含む)が、1人あたり約1100万円の損害賠償を国に求めた訴訟。06年4月に水戸地裁に1次提訴。4次訴訟まで起こされ、国の責任を認めた筑豊じん肺訴訟最高裁判決(04年4月)に沿って、患者側の主張を認める方向で、14日までに患者22人との和解が成立している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070917-00000011-mai-soci