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2007年09月16日(日) 00時00分

読売新聞

ミーティングを終え、家路につく参加者(7日、甲府市丸の内で)
 7日夜、甲府市丸の内の県ボランティアセンターの一室。四角く並べられたテーブルに男女約35人が着席していた。顔を隠すように大きなサングラスをかけた坊主頭の男性、赤ら顔の背広姿の20代の男性、スエットスーツの30代前半の女性……。年齢も職業も様々だが、共通するのは全員が薬物中毒、もしくは経験者だということだ。

 「初めまして薬物依存の“マイク”です」。沈黙を破ったのは、司会役の40代後半の男性だった。小学校高学年からたばこや酒を始め、その後麻薬や覚せい剤にエスカレートし、気が付くと刑務所に入っていたという。マイクは自己紹介を終えると、発言の際は仮名で、秘密厳守、私生活の詮索(せんさく)をしない——などこの集いでのルールを説明した。

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 30歳代の茶髪の男性が口を開いた。「薬をやって捕まってはムショ暮らし。セミのような人生です」。「ミッキー」と名乗るその男性が社会生活よりも刑務所生活の方が長い自分を地上での命の短いセミに例えると会場に笑い声が響いた。

 「10年くらい前、手錠をかけられた時、その刑事を憎みました」。ミッキーは薬物所持の現行犯でマンション高層階の自室で逮捕された。連行される直前に「最後に一度、息子を抱かせてほしい」と刑事に頼んだが、断られた。

 刑務所に収容後も手紙で刑事とやりとりを続けた。数年の服役後に再会した際、「なぜあの時、息子を抱かせてくれなかったのか」と聞くと、刑事は「抱かせていたらお前は子どもと一緒に飛び降りたかもしれない」と答えた。「思わず刑事を抱きしめた。当時は絶望的で本当に飛び降りたかも知れない。息子と自分の命を救ってくれた刑事に今では感謝しています」。ミッキーはそう話を結んだ。

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 小柄な浅黒い顔のスエット姿の女性、「まり」(47)が意を決したように発言した。「小学校のころシンナーを始め、約10年前からLSDや大麻にも手を出し始めました」。20代前半で結婚、出産、離婚。飲食店などで働いたが、人間関係で悩み、自宅に引きこもるようになった。

 その間、数多くの違法ドラッグを使った。売人が逮捕されたり、金がなくなったりすると、風邪薬を酒と一緒に大量に飲んだ。

 今は入院治療中で医師からこの集会を紹介されたという。「ずっと1人だった。同じ苦しみに悩む仲間が出来て本当にうれしい」。涙を浮かべて話し終えると、拍手がわき起こった。

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 2回目の集会の出席者は7人。他県から応援が集まった前回に比べ激減したが、ほぼ全員が司会者に促されることなく自分から発言した。「やくざの組織に入りまして……」。そう切り出して過去を語った30歳代の男性。うつむいたまま一点だけを見つめて「もっと優しい人間になりたいんです」と消え入りそうな声で繰り返す30歳代の男性。

 2回の集会を通し、参加者の中には、直立の姿勢で、瞑想(めいそう)するようにじっと目を閉じている人や、話しの内容が支離滅裂だったり、話している途中で体をふらふらと前後にゆらしたりと、不自然な姿も見られた。

 ミーティングを主催した「トミー」と名乗る60歳代の男性は、「自分もかつて覚せい剤中毒だった。薬をやめるのは苦しかったが、苦しんでいるのは自分だけじゃないと思うと、気が楽になった。悩みを話すのは恥ずかしいことではない。思う存分自分の苦しみを打ち明けてほしい」と話している。

 県警組織犯罪対策課によると、県内の覚せい剤などの薬物事犯の検挙数は、2003年度が160件(125人)、06年度は196件(150人)。同課によると、検挙者の中に占める再犯者の割合が高いのが山梨県の特徴だといい、04年度は65%、05年度は58・4%、06年度は61・9%といずれも半数以上を占める。

 犯罪者などの社会復帰を手助けしている甲府保護観察所の荒木龍彦所長は「中毒者は精神的に弱く社会から孤立しがち。さみしさなどから再び薬に手を出すと悪循環になる。健全な仲間を作って、自分が一人ではないと感じることが社会復帰の第一歩になる」とNAの試みに期待感を込めた。主催者は今後も毎週金曜日にこの集いを予定している。

 県警組織犯罪対策課によると、県内の覚せい剤などの薬物事犯の検挙数は、2003年度が160件(125人)、06年度は196件(150人)。同課によると、検挙者の中に占める再犯者の割合が高いのが山梨県の特徴だといい、04年度は65%、05年度は58・4%、06年度は61・9%といずれも半数以上を占める。

 犯罪者などの社会復帰を手助けしている甲府保護観察所の荒木龍彦所長は「中毒者は精神的に弱く社会から孤立しがち。さみしさなどから再び薬に手を出すと悪循環になる。健全な仲間を作って、自分が一人ではないと感じることが社会復帰の第一歩になる」とNAの試みに期待感を込めた。主催者は今後も毎週金曜日にこの集いを予定している。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamanashi/news001.htm