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2007年09月16日(日) 00時00分

一票の重み 今こそ読売新聞

公開討論会で、立候補予定者の訴えに聴き入る市民。選挙戦に向け幅広い議論が期待されている(12日、枚方市市民会館で)
 「かわいいでしょ」。小学2年の長女(7)が差し出した手作り人形を、市内在住の主婦(35)は目を細めて眺めた。9日にサンプラザ生涯学習市民センターで開かれた人形劇講座には、親子約30人が集まった。主婦は「前市長に票を入れたので、裏切られた気持ちです。でも、今回は誰が立候補するかも知りません」。

 市内には人形劇団が約20あり、17年前から毎年、大規模なフェスティバルを開いている。また、約90のNPO法人が子育てや介護、社会教育活動を展開、〈市民活動が活発な街〉として知られるが、官製談合事件で行動を起こしたグループは、ほとんどない。

 その翌日。談合で生じたとされる損害金について、前市長や業者らに賠償させるよう市に求める住民監査請求を行った、市民グループ「見張り番」のメンバーは記者会見で語った。「本当は、地元団体が請求するのを待っていたのですが……」

 「市民の政治に対する、あきらめのようなものを感じる」。無所属の女性市議は、ため息交じりに話した。〈市民派〉として、市長選立候補を真剣に考えた。「組織や党派以外の選択肢を増やそうと思った。候補が少ないと、政治への関心が薄れるでしょう」

 しかし、事件直後は毎日のようにあった抗議、憤まんの電話やメールが全く来ないようになり、「市民は事件について関心を持ち、怒っているのか」との疑問を感じ始め、出馬を見合わせた。「事件の構図がいまだによく分からない。身の潔白を訴えていた前市長は起訴され、保釈後は何も言わなくなった。やりきれない思いを持つ市民の間から風を起こすのは難しい」

     ◎      

 「談合は公金詐取」「利害関係者の接待を受けない制度を」「大企業に多額の税金が流れるのを止める」——。

 市民会館で12日に開かれた立候補予定者3人の公開討論会。市民ら約400人の前で、3人とも持ち時間の多くを事件に関する見解や防止策に費やした。聞いていた元府職員の土岐(とき)泉(59)は違和感を抱いた。「事件の教訓を生かすのはもちろんだが、将来の都市像も語り合ってほしい」。昨春に退職して以来、街づくりに関する市民フォーラムなどを企画するが、集まるのはいつも同じ顔ぶれで「議論に深みが出ない」と残念がる。

 市の昼間人口(2005年)は、夜間の85・1%。大阪や京都の通勤・通学圏で、地元への帰属意識が薄いといわれる。人口や産業形態が似ている茨木市(93・3%)や吹田市(97・6%)、八尾市(95・0%)などよりも低く、働く世代の姿が見えない今回の選挙を反映している。

     ◎       

 前市長が目指した09年4月の中核市への移行計画は、ストップしたまま。「中核市準備室」の職員は「どんな街づくりを進めるかは、次のトップ次第」と話す。

 中核市になれば、室外広告の規制といった裁量権が与えられる。「枚方は歴史が古く、観光都市としての発展も可能」という、前市長の路線を継承するのか、それとも別の道を模索するのか……。

 子育て支援、耐震化を含めた小中学校の施設整備、地域密着型の介護老人施設の充実など、喫緊に取り組まなければならない課題が山積している。全国で公開討論会を主催している市民団体「リンカーン・フォーラム」(事務局・千葉県市川市)事務局長の内田豊(42)は「古里のトップを決める機会は選挙しかない。棄権すれば、これから4年間の市政で起きることを批判する権利はないという気持ちで、選挙と向き合ってほしい」と話す。

     ◎       

 16日は告示。枚方の〈未来図〉について、立候補者の白熱した舌戦を期待したい。 (敬称略、この連載は坂木二郎が担当しました)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/osaka/news001.htm