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2007年09月12日(水) 13時01分

すり抜ける黒いカネ:「国際口座」不正開設事件/上 背後に国際詐欺集団 /埼玉毎日新聞

 ◇巧妙な手口、資金の流れ
 「振り込んだ……口座はつくってない。アクシデントだ」
 東京・六本木、午前1時。雑居ビル地下のアフリカ料理店で、経営者のナイジェリア人男性は「arrest(逮捕)」とまくし立て、受話器をたたきつけた。元はフィリピンパブという狭い店。カウンターにアフリカ諸国のビールが並び、西ナイジェリアの伝統音楽が店外まで響く。記者の他に客はいない。
 「ナイジェリア人は素晴らしい。でも政治がだめ。教育を受けても仕事がない。全部コネクション。だから、みんな仕事を求めて国外に出る」。男性は「分かってほしい」という表情で相づちを求めた。
 ナイジェリアの人口はアフリカ一の約1億4000万人。1960年の独立後、軍事政権下で政治腐敗が進み、貧富の差の拡大、宗教と民族間の対立が激化した。近年、民主化への一歩を踏み出したものの失業率は依然高く、国外に稼ぎを求める人は多い。
 県警に詐欺容疑で逮捕されたアサボー・フェリックス・スティーブ容疑者(40)も六本木で働く一人だった。埼玉県内で運転手をしていたころのつきあいや、六本木周辺の日本人を誘って口座を開き、海外からの送金を受け取っていたとみられる。数%の報酬が次々と日本人のネットワークを築いていった。
 越谷市でレストランを経営し、多くの同胞の面倒を見たナイジェリア人、クリストファー・アンドリュースさん(38)は「日本で良い職に就くのは難しい。ナイジェリアで会計の学位を取っても日本の銀行員にはなれない。すべてのナイジェリア人が悪いわけではない。だが、犯罪で楽に稼ごうとする者がいるのも残念ながら事実」と話す。
 80年代にナイジェリアで始まった「419事件」はその後、各国に拡散。同国政府の取り締まり強化やITツールの普及に伴い、アフリカ諸国や欧米、東南アジアなどに蔓延(まんえん)していった。米連邦捜査局(FBI)は80カ国以上でナイジェリア人犯罪組織を確認しているが、ナイジェリア人が関係しない模倣犯も増えた。
 「(国際テロ組織)アルカイダのようにセル(細胞)が各国に点在し、情報交換や海外送金、口座の共有などをしているのではないか。巧妙な手口や資金の動きから、経済や国際送金の仕組みに精通するグループが、現地人を仲間に引き入れて活動している」。国際詐欺に詳しい日本貿易振興機構(ジェトロ)の児玉高太朗主査は、事件の広がりを推測する。
 アサボー容疑者が開かせた口座には、約2年間で計7億円が振り込まれた。背後には欧米などで暗躍する国際詐欺集団の影が浮かぶ。「口座仕切り役」「送金役」などに分かれ、「摘発は氷山の一角」と見る向きは多い。
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 黒いカネの軌跡は世界を覆う。県警による強制捜査は、犯罪組織によるマネーロンダリング(資金洗浄)に一定の歯止めをかけられるのか。国際犯罪と日本の状況を検証する。
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 ◇口座不正開設事件
 今月2日、他人に使用させる目的で県内や東京都内の金融機関に口座を開設したとして、県警国際捜査課と所沢署はナイジェリア国籍で蕨市に住む飲食店経営、アサボー容疑者(40)と所沢市の運転手、磯野敬一容疑者(32)ら日本人5人を詐欺容疑で逮捕した。架空の法人名義などで開設された38口座には、海外版振り込め詐欺とも言える「419事件」などの被害金約7億円が、マネーロンダリング目的に振り込まれ、さらに国外に移された可能性がある。

9月12日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070912-00000110-mailo-l11