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2007年09月09日(日) 09時05分

奈良少年刑務所、診察せず処方箋8800枚朝日新聞

 奈良少年刑務所(奈良市)が06年度までの3年間にわたり、医師の診察なしに作成された約8800枚の処方箋(しょほうせん)をもとに、医薬品を受刑者に投与していたことが近畿弁護士会連合会の調査でわかった。副作用が大きい向精神薬も含まれていた。法務省大阪矯正管区は「再処方に限った措置で違法性はない」と説明するが、同会の調査では京都刑務所(京都市)と神戸刑務所(兵庫県明石市)でも同様の処方箋が最大26万枚作られた疑いがあるという。同会の弁護士らは医師法に抵触する恐れもあるとして、国に本格調査を求める方針だ。

 近弁連の人権擁護委員会が8日、神戸市での研修会で発表した。

 同会は6〜7月、大阪矯正管区が所管する近畿2府4県の刑務所、医療刑務所、少年刑務所、拘置所、拘置支所24施設を対象に、医療態勢に関するアンケートを実施。全施設から回答を得た。

 医師法20条は、医師が自ら診察せずに処方箋を作ることを禁じている。そこで医師が施設で直接診察せず発行した処方箋の数を尋ねたところ、奈良少年刑務所は、04年度2051枚▽05年度3159枚▽06年度3597枚と回答した。

 同刑務所などによると、准看護師の資格を持つ刑務官3人が症状を聞き取り、報告を受けた医師が処方箋を作成していた。これらの処方箋をもとに投与された薬の中には、向精神薬や睡眠薬も含まれていたという。

 同刑務所の入所者は8日現在、定員を150人超える876人。これに対し、1人だった常勤医は6月に退職して現在はゼロ。非常勤の医師2人らが対応にあたっているという。

 大阪矯正管区は「医師が直接診察せずに処方箋を出すのは再処方に限った措置。違法性はない」と説明。同刑務所は「いずれも症状が慢性的で初診以降、変化が少ないケースだ。すべてを医師にみせていたら、緊急時の診察などに対応できない」と話している。

 しかし、調査を担当した金喜朝(きん・よしとも)弁護士(大阪弁護士会)は「医師法違反の恐れが高い。入所者が適切な医療を受ける権利を侵すものだ。個々の施設の問題というより、施設での慢性的な医師不足が原因。国が関連予算を増やすべきだ」と話す。

 また近弁連の調査によると、04〜06年度に作成された処方箋のうち、京都刑務所は9万4480枚、神戸刑務所は16万7255枚の中に、無診察の処方箋が存在する可能性があるという。京都刑務所(入所者約1800人)には常勤医が3人、神戸刑務所(同約2100人)には1人しかいないことなどから、同会弁護士らは「大半が直接診察せずに処方したケースではないか。国に実態調査を求めていきたい」としている。

http://www.asahi.com/national/update/0909/OSK200709080087.html