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2007年09月07日(金) 17時07分

薬害肝炎訴訟 原告に厳しい判断…戸惑い広がる毎日新聞

 全国5地裁に起こされた「薬害C型肝炎訴訟」の1審判決を締めくくる7日の仙台地裁判決は原告にとって厳しい判断となった。全国4地裁判決が認めた「国責任」は認めなかった。「それでは、だれが私たちを助けてくれるのですか」。やり切れない思いに原告たちは戸惑った。
 判決が言い渡された101号法廷。仙台訴訟の原告のなかで唯一、実名を公表している仙台市の小松チヨコさん(69)は、提訴後の04年に76歳で亡くなった夫忠雄さんの遺影を持ち入廷した。唯一、製薬企業の賠償が認められた福島県の自営業の女性(54)も、国責任は否定された。裁判長を真っすぐ見つめながら判決を聞き、ぼうぜんと唇をかみしめた。
 女性は87年8月、県内の総合病院で三女出産直後、大量の出血に見舞われた。「命にかかわる。輸血します」。輸血で病気に感染することがあることは知っていた。「血が汚れていませんように」。祈るような気持ちで輸血を終えると、診察に来た医師が「1本で大丈夫でしょう」と指示するのが聞こえた。その時は投与されたのが「フィブリノゲン」という血液製剤であることはまったく知らされなかった。
 3カ月後に40度近い発熱、どこかに吸い込まれそうなめまい……。「私の体、どうなっちゃうんだろう」。体の芯に力が入らない。必死に4人の子育てを続けた。提訴し、集会に加わる中、独りぼっちで抱えてきた苦しみは全国172人の原告が共有していることを知った。救済を願う多数の患者もいた。
 判決直後、涙を浮かべて退廷した。記者会見で一瞬黙り込み「非常に残念です」と声を振り絞った。「最初は意味が分からなかった。認められていないようだと気付いてからはただびっくりして……」。判決理由が理解できないと繰り返す。「事務的、官僚的。現実を見ていない判決でした」
 女性は怒りものぞかせた。「350万人の患者がいて、原告になれない人もいる。一刻も早い解決が必要で、被害が広がった責任をなぜ国が無関係といえるのか、不思議でならない。後退するわけにはいかない。この判決を怒りに変えて戦い抜きたい」【藤田祐子、伊藤絵理子】
 ◇「本当に悔しいの一言」と震える声で
 原告と弁護士は判決約1時間後から、同地裁近くの弁護士会館で会見。亡き夫の無念を引き継いだ小松チヨコさんは「万歳して、夫に『良かったね』と報告したかった。本当に悔しいの一言」と震える声を絞り出した。
 全国から駆けつけた他地裁の原告4人も、約50人の支援者に「不当判決を許さない」と訴えた。全国原告団代表の山口美智子さん(51)は「大阪から続いた4地裁の判決で、救済に向けた大きな流れを作ってきた。政治もようやく動きつつあった。今日の判決は仙台の原告だけの問題じゃない全国の原告が一つになって、これからも戦っていきたい」と強い口調で述べた。
 全国弁護団の鈴木利広代表は「薬害肝炎の本質を全く理解していない、極めて不当な判決だ」と険しい表情で話し、「今回の判決が、これまでの4判決の価値を下げるわけではない。引き続き、国と製薬会社に全面解決を求めていく」と述べた。【鈴木一也、比嘉洋】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070907-00000019-maip-soci