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2007年09月04日(火) 22時27分

ウィキペディア、信頼度は?利用者急増、誤った情報も朝日新聞

 だれでも編集できるネット上の無料百科事典「ウィキペディア」が、巨大化を続けている。利用者が急増する一方、誤った情報がそのまま記載されている場合も。常識破りの百科事典は、どこまで信用できるのか。

ウィキペディア上の宮沢元首相に関する記述=ウィキペディア日本語版から

ウィキペディア日本語版の項目数の推移

 「指摘を受けるまでもなく不適切な行為で、読者と関係者の皆さまにおわび申し上げます」。今年7月5日、静岡新聞に、こんなおわび記事が掲載された。

 その数日前、同社の1面コラムを執筆した論説委員が、宮沢喜一元首相の北方領土交渉などのエピソードについて、ウィキペディアの記述を引用したのだ。

 掲載当日、読者から「ウィキペディアの記述と似ている」という指摘があった。論説委員は、一般に知られている事実だと思い、出典を省いたという。

 ウィキペディア側は、ウィキペディアの記述は著作権法の認める範囲で引用することができる、としている。創始者のジミー・ウェールズ氏は「今回の問題は出典を示さず引用し、報道倫理に反したことだ」と話す。

 だが、同新聞社は、記者がウィキペディアを引用したこと自体を問題視。問題発覚後、各部の部長らが現場の記者に対し、「ウィキペディアを取材の参考にするのは構わないが、記事を書く際の出典として使うべきではない」と伝えたという。

 ウィキペディアは米国に住むウェールズ氏が01年に開設。6年で250言語600万項目まで成長した。日本語版の項目数は02年は100に満たなかったが、年々増加し、英語版、ドイツ語版などに続き5番目の大きさになった。8月10日には、項目数が40万を超え、全34巻に及ぶ「世界大百科事典」(平凡社、07年版)の索引項目45万に迫る。

 特徴は、だれでも自由に編集でき、最新のニュースについてもリアルタイムで新しい項目が立てられ、情報が刻々と更新されていくことだ。

 便利さの一方で、誤った情報が書かれている項目もあり、修正や追加が繰り返されている。

 日本語版管理者によると、書き込みの57%は登録していない匿名ユーザー。不適切な記事については、約50人の「管理人」と呼ばれるボランティアが削除にあたっているという。

 米国では05年、USAトゥデー紙の元論説主幹が、「ケネディ大統領らの暗殺事件にかかわった」などと、虚偽の経歴を書き込まれる問題が起きた。書き込みは削除されたが、ほかのサイトにも転載されたため、削除に時間がかかったという。

 その後、ニューヨーク・タイムズ紙の経済部長は、ジャーナリスト団体向けに「ウィキペディアには不正確な情報が多数あるようだ。新聞記事の確認資料として使うべきではない」との見解を示している。

 「メディア・イノベーションの衝撃」などの著作がある橋場義之・上智大教授(メディア論)は言う。「ウィキペディアには、参考文献が記されているものなど、信頼できる情報もあれば、一次情報として使えないものもある。引用する側が、きちんと信頼性をチェックすべきだ」

http://www.asahi.com/culture/update/0904/TKY200709030400.html