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2007年09月03日(月) 18時56分

農業共済の不正受給はこうして見逃されたオーマイニュース

 9月1日は「二百十日」で、昔から台風の危険日でもある。今月の末に、稲刈りを予定している私としては、この季節、台風の動きには神経を尖らすことになる。万が一、収穫目前に大きな台風に襲われれば、一瞬にして収穫が、皆無になる危険性もはらんでいる。米作りは、最後の一粒を、米袋に入れ終わるまで安心ができないのである。

 このように農業は、自然の恩恵を受ける反面、自然災害との戦いでもある。この自然災害による農作物の減収分を補填するために、国策による「農業共済制度」という公的保険がある。これを運営するのが農業共済組合である。

 保険の対象になる農作物は、水稲(米)や果樹・大豆・麦などで、水稲の場合、保険の掛け金が、農家と国が折半する仕組みとなっている。
 
 この制度を悪用したのが、遠藤農水相(9月3日辞任)が組合長を務めている置賜(おきたま)農業共済組合(山形県米沢市)である。

 1999年、同組合は、置賜地方の果樹が盛んなことを逆手に取り、偽の果樹共済の申込書で加入者を水増し、国から補助金115万円を不正に受給したのである。

 この不正受給は、2004年に会計検査院の指摘で発覚したが、肝心の115万円の補助金は、今もって返還されていない。遠藤前農水相の言葉を借りれば、

 「会計検査院や県から、その補助金の返還に対する指示はなく、指示を待っていた」

ということだが、2004年に会計検査院から、不正受給の指摘を受けた後、2007年の5月に再指摘を受けるまで、放置するなどということは常識ではとても考えられない。
 
 農業共済組合は、3階建て組織になっている。末端の置賜農業共済組合、これを統括する山形県農業共済組合連合会、そして、トップの全国共済協会である。この組織は、全国共済協会を頂点とするピラミッド式の構成になっており、全国共済協会は、都道府県の連合会の会長らによって組織されている。また各都道府県の連合会は、単位農業共済組合の組合長によって組織されている。
 
 ところで、置賜農業共済組合の組合長である遠藤前農水相は、2003年に山形県農業共済組合連合会の会長に就任し、現在もその任にある。前にも触れたように、県の連合会は、単位農業共済組合の指導、監督という立場にあり、毎年、単位組合の業務内容が、法令や定款通り実施されているか厳しく監査する立場にある。
 
 仮に、単位組合に何らかの問題があったとしても、県の連合会の段階で発見されれば、その時点で善後策がとれる仕組みになっている。この仕組みがうまく機能していれば、前述の補助金の不正受給は会計検査院の指摘を受けるまでもなく、県の連合会レベルで国へ返還できたはずである。

 ところが、その県の連合会の会長が、問題を起こした当事者の置賜農業共済組合の組合長なのだ。

 信じられないが、犯人と警察官を、同一人物が演じているようなものである。しかも、当事者が国会議員も兼任しているときている。なるほど、お咎めがないのもうなずけるはずである。
 
 また単位農業共済組合には、事務費補助として、国と県からも補助金が恒常的に支出されている。このため、山形県の監査委員の監査の対象にもなっている。

 ちなみに、会計検査院から、補助金の不正受給の指摘を受けた2004年には、事務費補助金として2億9143万2000円が、山形県から置賜農業共済組合へ支出されている。

 このため、県の監査委員は同組合を監査したが、2004年12月21日付けで、「総体として適正に処理されていると認める」というお墨付きを与えている。

 もちろん県の監査員は、県の支出した事務費補助金2億9143万2000円についての監査が目的で、国からの補助金については守備範囲ではない。

 しかし、2004年の問題発覚時、県は同組合に対して詳細の調査を指示した経緯からみれば、県の行政監査で、この国の補助金も監査の対象にすることはできたはずである。結果論になるが、その時に適切な対応策を講じていれば、このように放置されずにすんだかもしれない。
 
 いずれにしても、同組合の起こした不正受給は、県の連合会と県という2つの組織で、結果的に放置されたことになる。当然、2つの組織の指導、監督のあり方が問われてしかるべきだ。

 今回明るみに出るまで、放置されていた最大の理由は、問題を起こした同組合の組合長が、遠藤武彦衆院議員であるということである。

 農業共済組合の組合長であり、山形の連合会の会長であり、全国共済協会の理事であり、衆院議員である彼は、農業共済組合のすべてを、そして、国県の補助金政策のすべてを知る立場にある。その彼が、この問題をここまで放置した責任はきわめて大きい。

(記者:藤原 文隆)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070903-00000005-omn-pol