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2007年08月30日(木) 12時09分

「学校裏サイト」と保護者の意識レベルオーマイニュース

 ケータイサイトの「学校裏サイト」によるいじめ問題が社会問題化している。

 私は宮崎市でパソコン関連の講座を開いたり、相談を受け付けているのだが、「学校裏サイト」という名前を耳にするようになる以前、宮崎県外の保護者の方から相談を受けたことがあった。

 「息子の高校3年生の男子生徒の実名が、ケータイの電子掲示板に書かれた」というものだった。

 初めは冗談のつもりだったようで、翌日には書き込みが消されていた。

 しかし、ある日、そこに、同じクラスの女子が「きもい」と書いたことで、次第にエスカレートしていった。バイトから帰ってきた息子が顔にあざをつくっていたことが気になり、話を聞いたところ、電子掲示板で「お前を殴る」と書かれ、バイトの帰り道で殴られたとのこと。

 これは私の相談業務の範囲ではなく、立派な傷害事件である。高校ならびに警察へ相談するとともに、掲示板を開設している管理会社へも連絡するように、と相談者の方に話した。私も気になっていたので、問題の掲示板を確認し、管理会社へ連絡をした。

 数カ月たってからこの掲示板は閉鎖された。その後、相談者から連絡があり、なんとかトラブルは解決し、男子生徒は学校に通うようになったと聞いた。

 サイバー犯罪による摘発件数が全国で1000件を超えた2002年ごろから、「情報セキュリティ」という言葉が使われ始め、子どもを巻き込んだ事件も増え始めた。

 2003年9月。私どものNPO法人・情報ボランティア事業団の主催で、宮崎市において「インターネットセキュリティ講演会」を開催した。宮崎県警察本部の生活安全課の担当者を招き、全国と宮崎県内におけるサイバー犯罪の現状や対処方法について講演してもらった。約70名の一般市民の方が参加し、「今後もこのようなインターネットに関する講演会などを開催してほしい」という声を多数いただいた。

 2004年7月。宮崎市市制80周年記念事業の1つ、「情報モラル日本一のまちづくりプロジェクト」の場で、宮崎市内19の公民館において「出前情報モラル講座」を開いた。同年6月、長崎県佐世保市の小6女児殺害事件が起こったため、急きょ、「緊急! 地域や家庭で情報モラルを考えよう」というテーマに切り替えたのだ。

 佐世保の小6女児殺害事件はショッキングな出来事であった。インターネットによるトラブルがこのような事件に発展するとは、誰も思わなかっただろう。対岸の火事ではない。同じような悲劇を繰り返さないためにも、保護者や地域の大人が何らかの対策をとらなければならないと考え、講座のテーマを変更したのだ。

 しかし、このような大事件直後だったにも関わらず、講座への関心は薄かった。40名収容できる公民館の大会議室に参加者が9名とか、3名の日が続いた。市制80周年記念事業の1つなので、新聞、テレビ等で講座の告知は行っているのだが、参加者がまったく来ない公民館もあった。

 19の公民館で19回の講座を行っても、まだまだ「サイバー犯罪」は対岸の火事で、わが子には関係ないと考えている保護者が多いのだろうか。それとも私たちだけが「危ない、危ない」と騒ぎたて、それを周囲は冷ややかに見ているのだろうか。自問自答する日々が続いた。

 情報モラルやサイバー犯罪の防犯に関する講座は、宮崎市が実施する「子どもDAY」事業でも行ってきたが、反応は今ひとつだ。

 「子どもDAY」事業は、学校週5日制に伴う、土曜日の公民館開放事業の一環で、各公民館で子どもDAY推進委員会を組織し、パソコン講座・書道教室などの習い事や、野外活動、スポーツなどが行えるように計画的にプログラムが組まれている。

 私が担当したパソコン講座では、学校では教わらないようなことをするよう、カリキュラムを組んだ。当然、情報モラルやインターネットの使い方なども学べるようにした。

 公民館という場所で、地域の大人たちが講師となり、地域の子どもたちを指導するという、この「子どもDAY」講座は、単なる学びの場だけではなく、地域で子どもたちを守っていこうとする雰囲気を醸成する上で重要な事業となっている。

 私の講座は、第3土曜日の9時30分から始まる。

 保護者が働いているところも多く、自転車や歩いて来る子どもがほとんどであったが、中には保護者の送り迎えで来る子どももいた。その時の親子の会話が気になった。
 
 「11時30分に車で迎えに来るから、公民館で待っていてね」

 「お母さんはこれからどこに行くのだろう。仕事とも思えないし、時間があれば一緒に講座を聴いてもいいのに……」

 このことは、子どもDAY推進委員会にも言えた。

 推進委員会の構成メンバーは、公民館職員、地元の小中学校長、小中学校のPTA役員である。PTA役員さんで構成される事務局が、講座の企画・運営、講師との調整などを行っている。私は、事務局のPTAのみなさんも講座のお手伝いをしてくださるものだと思っていたが、実際は違っていた。

 1年目の「子どもDAY」パソコン講座の開講式には事務局スタッフは参加したが、その後の講座には一度も顔を出すことはなかった。どのようにして講座が進められているのか、事務局スタッフは把握していなくても良いのか、ということを年度末の反省会で話した。

 しかし、2年目も同じ状況であった。地域の子どもたちのために頑張っているのは、講座を進めている地域の大人だけなのか。

 「地域の子どもたちのために、私たち事務局も積極的に参加して、インターネットのトラブルの対処方法について、子どもと一緒に学びます」という声を聞くことはなかった。

 結局、事務局の姿勢が変わらなければお受けしないということで、この講座は2年間で終わった。

 その後、1年の間を空けて、今年の4月から、再び、「子どもDAY講座」を引き受けることとなった。事務局の姿勢が変わり、サイバー犯罪やインターネットのトラブルから子どもたちを守ろうという気運が高まったのだろうと思いきや、事務局だけではなく「子どもDAY」推進委員会そのものの体質はまったく変わっていなかった。

 たしかに、パソコンやインターネットは、学校でパソコンを学んでいる子どもやそれを専門としている関係者に任せておけば良いのかもしれない。

 しかし、家庭でトラブルが発生した場合は、どうするのか。

 いったい誰が子どもを守るのか。

 講座で子どもたちと一緒に学んでいれば、ある程度のことは保護者でも対処できるのではないかと考える。

 「子どもDAY」の講座だから、子どもを家庭から解き放ち、地域の大人に任せておけば良いという考えなのだろうか。

 現在、本年度の「子どもDAY」パソコン講座は、「親子 de インターネット・ワークショップ」という名目で進めるにあたって、事務局のみなさんの協力をいただくということで話を進めている。7月に新しくパソコンの入れ替えが行われたこともあり、9月以降に講座を開催することにしている。

 3年前、出前で行った情報モラル講座は保護者や大人の反応は冷ややかであった。
が、その状況は今でも何ら変わっていない。

 お父さん、お母さん、保護者のみなさん、そろそろ重い腰をあげませんか。子どもたちが、被害者にも加害者にもならないようにするために。

(記者:大谷 憲史)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070830-00000000-omn-l45