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2007年08月30日(木) 12時24分

「闇の職業安定所」とネット犯罪オーマイニュース

 名古屋市千種区の女性(31)が8月24日夜、路上で拉致、殺害された事件で、26日、死体遺棄容疑で3人の男が逮捕された。この3人が知り合ったのは、インターネットのサイト「闇の職業安定所」だった、と報道されている。こうしたサイトが犯罪の「窓口」になったケースは過去にも多くある。 

 検索すると、「闇の職業安定所」と名のつくサイトは複数ある。なかには、携帯電話からしかアクセスできないサイトも出てきている。

 具体的に、どの「闇の職業安定所」だったのかを特定した、との信頼おける報道はなく、情報は錯綜している。

 そんな中で、03年から開設されていた「闇の職業安定所」は、この事件後、閉鎖された。管理人は、今回の事件を機に、複数のメディアの取材に対して、閉鎖を考えていることを示唆していた。

 私もこのサイトの管理人にインタビューをしたことがある。

 その際に連絡を取り合っていたメールアドレスは、サイトの閉鎖とともに無効となり、メールが届かない状況になっている。

 そこで、過去にインタビューをした内容を振り返ってみることにする。

■「報道されると、違法な書き込みをする人が増える」

 まず、2005年10月のインタビューで、管理人は、マスコミ報道で、同サイトが「闇サイト」と扱われていることについて、

 「賛成ではありませんが、絶対に反対ではありません」

と答えていた。同サイトはもともと、短期のアルバイト情報を掲載することが目的だった。誰もが求人や求職ができたり、広告の紹介やアフィリエイトの案内をする掲示板だったのだ。

 「闇の職業安定所」といった名前にしたのは、「その時人気サイトに『裏のハローワーク』というサイトがあったため」と話していた。

 ただ、『裏のハローワーク』の管理者は口座売買で逮捕され、マスコミに報道されると、ニュースを見た人たちが真似をしようとして、違法な書込みが爆発的に増えたのだという。

 「(当サイトに書き込んで)逮捕された人も出ていますが、当サイト以外にも書込みは当然していると思われますし、擬似サイトも存在します。多くは管理者が不在です。野放しとなっているサイトが多く見られます。当サイトで1回でも書込みをして、それをこちらで問題があるとして削除をしたとしても、他の管理されていないサイトにも書込みをして、応募者があって逮捕となったら、報道では『闇の職業安定所で募集』とされてしまうのも事実です。これを見た人が、犯罪サイトなんだと更に違法な書込みをする人が増える。当サイトでは犯罪に関わる書込みや売買の書込みは禁止です」

 同サイトでは、違法な書込みは削除や制限を掛け、禁止ワードを50以上設定して、犯罪防止にも努めた。また、保存しているログを警察に提出すると明記した。

 次に具体的な警察署(県警名)の名前を出して警告した(後日、警察からクレームがきたために、警察名を出して警告することをやめた)。その後、警察にログは提出する、ログは保存すると明記してきた。

■「犯罪行為を書き込む人は、サイトの寿命を縮めるだけ」

 つづく、2006年3月のインタビューでは、

 「当サイトが関連した犯罪だとするような報道などは少なくなっています」

との認識を示した。その上で、
 
 「掲示板にアクセスをする前に、求職、求人と分けて注意文を明記しています。(その注意文の内容は)犯罪に関する求人は警察の関与があります。また、そうした内容を掲示板に書き込めば、それが証拠となる」

と、犯罪が起きないようなスタンスで、同サイトを運営してきたことを強調していた。そのためか、

 「わざわざ当サイトを利用して犯罪をする人がかなり減っている状態ですね。また、犯罪行為を書き込む人と個人的に関わりを持つことはありません。当サイトの寿命を縮めるだけの存在であり、関わりをもつ必要がない」

と、警察への協力と同時に、犯罪目的のユーザーとの接触は持たないとのスタンスは明快だった。

 ただし、このように答えていた管理人だが、現在、連絡が取れなくなっている。8月28日現在では、すでに当該サイトが閉鎖されている。しかし、同名のサイトが複数みられる。

■「携帯番号は飛ばし携帯ではない。だから『闇サイト』ではない」

 また、かつてネット犯罪の舞台になった「探偵サイト」の管理人についても、私はインタビューを行ったことがある。

 06年4月のインタビューでは、ある探偵サイトが、「復讐サイト」や「殺人請負サイト」、「闇サイト」といわれていた。同サイトは、自称探偵業の男が開設したもの。

 このサイトを通じて、殺人を請け負ったとして、この探偵が相談業務を委託していた別の男Tが暴力行為等処罰法違反(殺人の契約)の容疑で逮捕された。

 「サイトに『殺人項目』を入れたのは05年6月ごろ。『殺される』との相談が多くなったからで、『殺す』といった請負ではない。(闇サイトとは)どこにも書いていない。サイト上に携帯番号も載せている。その携帯は飛ばし携帯ではない。だから『闇サイト』ではない」

と話していた。

 この事件では、不倫相手の妻の殺人を依頼した元東京消防庁の女性救急隊員も、同法違反で逮捕された(処分保留で釈放)。現金を渡したのに、殺人が実行されないことで、女性自身が警察に相談したことがきっかけで発覚していた。

 相談に乗っていた男Tには懲役2年6カ月の判決が下った。また、サイト管理人の男は、懲役1年6カ月だったが、「報道によりすでに社会的制裁を受けている」、「被害者に返金して示談が済んでいる」ことを理由に、執行猶予4年がついた。

 公判で管理人の男は「ネットはしない」と述べていたが、舞台となったサイトは「復活」していた。男は、

 「逮捕前は申し訳ないから、サイトをやめようと思ったんです。サイトを再開したのではなく、刑事に『削除しろ』といわれたのが悔しいから、再開したふりをしているだけです」

と述べていた。

■管理人自らの対策の必要性

 ただ、こうしたサイトと犯罪の関係は未知数だ。インターネットであれば、匿名の相手との出会いはいつも「そこ」にある。そのため、犯罪に関連した「相手」とも遠い存在ではない。

 過去に取材したケースでは、殺人の実行役と、遺体の運搬役などを別々に依頼した、ということもあった。実行役は、殺す相手と見ず知らずで、遺体の運搬役は実行役と見ず知らず。どこの相手かわからない関係による犯罪計画だった。

 ただ、インタビューでわかるように、サイト自身に問題があったというよりは、ユーザー側に問題があったと思われる。いくら良質なサイトであっても、目的外で、犯罪目的で使用されることを、想定できない。そのため、そうした犯罪目的と思われる書き込みが報道による影響で短絡的に増える状況に対する、管理人自らの対策が必要になってくる。

 書き込みが、実際の犯罪に結びつくことは多いとは言えないかもしれない。今回のケースは、不幸なことに、お互いの「負の波長」が合った、といったケースなのだろう。

 このままいくと、ユーザー自身の手で、自由な表現の場であるインターネットが国家による管理・規制強化をする「理由付け」をつくらせてしまうのではないだろうか。また、こうした自由な表現の場でのやりとりによって被害者が生まれていくことを懸念せざるを得ない。

(記者:渋井 哲也)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070830-00000001-omn-soci