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2007年08月28日(火) 12時49分

イラン人レズビアンが死刑の危機オーマイニュース

 同性愛者であることから死刑が予想され、母国イランを離れイギリスに亡命している女性の難民申請が、イギリス入国管理局に棄却された。

 彼女はここ数日の間(当初予定では8月28日)に、イランへ強制送還される可能性が高い。

 命の危機に直面しているのは、イラン人でレズビアンのペガー・エマンバクシュさん(40)。イランでは同性愛は違法とされ、死刑に処されることがある。現在、彼女はイギリス入国管理局の収容所にいる。

 イスラム刑法では「レズビアン同士の性交への罰則はむち打ち100回。3回以上繰り返された場合は死刑」 (英国内務省のイランに関するガイダンス資料 2007年)とされている。

 2005年には10代のゲイ男性2人が絞首刑に処された。亡命イラン人同性愛者の人権団体「ホーマン」 は、イラン政府が1979年以降、少なくとも4000人の同性愛者を処刑してきたと非難しているという。

 ペガーさんのパートナーだった女性はすでに逮捕され、拷問を受け、石打ちによる死刑に処せられたそうだ。ペガーさんは、2005年にイランを脱出し、英国で難民申請を行った。レズビアンを公言しているペガーさんが今イランに戻れば、拷問と死刑が待ち受けていることが容易に予想される。

 しかし、イギリス入国管理局はイランでの厳しい現状を認識した上で、「レズビアンであることが証明できない」として、彼女が危険にさらされているとは信じないというスタンスを取っているという。死刑が予想される強制送還はもちろんだが、証明することが不可能な性的指向を理由に挙げること自体が、人権侵害にあたるともいえる。

■支援者が駐日英国大使館・外務省に対し請願書を提出

 8月25日に緊急開設されたブログ、「ペガーさん強制送還反対」の管理人である都内在住のレズビアン、広瀬麻弥さんと、レズビアンであることを公表している元・大阪府議の尾辻かな子さんが、8月27日午後、駐日英国大使館と外務省を訪れ、イギリス大使と麻生太郎・前外相に宛てて、207名の賛同人署名とともに強制送還中止を求める請願書を提出した。

 請願書提出が告知されたのが前日夜であり、さらに平日の昼間であるにも関わらず、ブログを読んだ10人ほどの支援者がメッセージボードを持って集った。

 広瀬さんは8月24日に、イギリスに住む友人からこの話を聞き、ペガーさんの支援団体「Friends of Pegah」が署名を募っていることを紹介するために、翌25日にブログを開設した。それをmixiの日記に書いたことでムーブメントが広がった。

 ブログには現在、1時間に400〜500のアクセスがあるという。「レズビアン」「署名」という2つのキーワードでこの件について書かれたmixiの日記は100件を超えるなど(27日20時現在)、大きな注目を集めている。

 「どのようなセクシュアリティをもち、どの国に生まれるかを選ぶことは、誰にもできません。人間はどこに生まれても幸せに生きる権利を持ち、それを行使できるべきです。これはレズビアンだけの問題ではなく、すべての人が共有できる問題だと思います」(広瀬さん)

 「イギリスとイランの2国間だけの問題ではありません。世界中が注目している人権問題です。日本政府がこの件について何らかのアクションを起こせば、それはイギリス政府へのプレッシャーとなることでしょう。」(尾辻さん)

 請願書を受け、イギリス大使館はこのアクションを本国へ報告することを約束し、外務省はこの問題をイギリス政府に問い合わせ、それによってなんらかの対応をすると述べたという。

 世界各地でもイギリ政府への抗議運動が行われている。

 イタリアではこの問題がメディアでも大きく取り上げられ、イタリア政府がイギリス政府に強制送還を中止するよう求めるとともに、法務大臣のマステッラ氏が、イタリアで彼女を難民として受け入れる考えがあることを示唆した。

 ペガーさんの処遇は、8月28日に入国管理局で再び審議されることになった。ただ、これによって強制送還という処遇が決定されることもあり、楽観視できる状況ではないという。「ペガーさん強制送還反対」ブログ」は、今もオンラインでの署名や、イギリス内務大臣へのFAX・メールでの抗議を呼びかけている

■問われる日本政府の対応

 じつは、日本でもこれと同じ問題が起こったことがある。

 2000年7月、日本への亡命を求めたイラン人のゲイ男性に、法務省は強制送還を言い渡したのだ。2005年に第3国への亡命が実現し、イランに戻ることは免れたが、強制送還が決定してから6年に渡って逮捕、収容、裁判という過酷な戦いを強いられた。国際人権規約を批准する日本は、また同じ過ちを犯さないとともに、他国の過ちを指摘していくべきである。

 「日本では性的少数者に対しての差別はない」と言われることがある。それは日本では表立った、あからさまな差別が少ないというだけである。百歩譲って日本で差別がないとしても、だからそれで良いということはない。世界中の人々が人権のもとに幸せに暮らすことを保障されてこそ、世界の平和は実現するのではないだろうか。

(記者:岡本まーこ)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070828-00000003-omn-soci