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2007年08月24日(金) 14時01分

著作権の“日本モデル”は可能か——保護期間延長問題ITmediaニュース

 著作権保護期間は、著作者の死後50年のままでいいか、70年に延ばすべきか——こういった議論が起きている背景には、欧米からの“外圧”があるとされる。すでに70年に延長した欧米が、日本にも延長するよう要求しているとし、「日本も欧米レベルの70年に延長しないと恥ずかしい」と主張する権利者もいる。

 「保護期間が短い方が豊かな2次創作が生まれ、文化の発展につながる」との考えから、欧米追随ではなく日本独自の著作権のあり方を打ち出し、諸外国にも広げていくべきだという意見もある。著作権の“日本モデル”は実現できるだろうか——「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム」が8月23日に開いたシンポジウムでは、日本発スタンダードの可能性などについて議論が交わされた。

 参加したのは、東京大学大学院法学政治学研究科教授で、政府知的財産戦略本部構成員の中山信弘氏、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事の久保田裕氏、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事のドミニク・チェン氏。コーディネーターは弁護士の福井健策氏が務めた。

 久保田氏が「大方の期待に反して」(福井氏)利用者側に近い立場で意見を述べたこともあり、パネリスト同士の意見対立はほとんどないまま議論が進んだ。「外圧は丸のみせず、日本独自のモデルを模索していくべき」という結論だが、独自モデルの具体的な形は見えず、会場からは「昨年から議論が進んでいない」という指摘もあった。

●外圧丸のみは不合理

 福井氏によると、日本の著作権保護期間延長論議は、02年に米国からの外交要求を受ける形で本格化した。06年12月に米国が提出した年次改革要望書(PDFへのリンク)には、保護期間延長や著作権侵害の非親告罪化といった要求が盛り込まれている。

 「米国は昔から、知的財産に関して他国に要求をし続けている。保護期間が延長されれば、ハリウッドや音楽業界などに他国からお金が回るからというのがその理由。だが米国は、他国の要求には耳を貸さない。外交というのはそういうもの。米国の要求は置いておき、何が日本の国益になり、文化の発展につながるか考えて結論を出すべき」と中山氏は指摘する。

 保護期間延長について、チェン氏、久保田氏は「慎重に考えるべき」という立場だ。「クリエイティブ・コモンズ(CC)は、著作権法を守った上で、著作者が2次利用の範囲を選べるようにしたもの。延長への無条件の反対はしない。ただ他国に突きつけられたものをそのまま受け入れるのは危険だ」(チェン氏)

 ACCSの会員団体にアンケートを取ったところ、延長賛成、反対がちょうど半々だったという。「個人的には、50年が70年に延びたからといって、権利ビジネスが大きくなるとは考えにくい。50年の現状でも契約がずさんなら意味がない。まずはきちんとライセンス契約するエンフォースメントや著作権教育が必要」(久保田氏)

 会場からは、昨年まで文化庁で著作権行政に関わっていたという男性から「著作権のあり方を検討する際、米国の要求は意に介していない」という発言もあった。

●延長すべきかは市場が決める

 延長が妥当かどうかは、市場に任せればいいと中山氏は言う。「お金が大きく動く場合は、市場に任せればうまくいくはず。コンテンツ不足の時代に保護期間を延長してしまえば、経済的にもマイナスだろう」(中山氏)

 だた、市場経済が働かない分野——例えば、素人の作った金銭的価値の発生しない作品や、作品のデジタルアーカイブなどについては、法律による対応や、CCの活用など制度の充実が必要になってくる。

 また、日本では世界に類例がないほど強力に守られている著作人格権も、経済合理性だけに任せられない著作権の大きな問題の1つで、今後の検討課題だ。

 「人格権を強固に守る日本の著作権法は、コンテンツを簡単に手に入れて改変できるデジタル時代に合うかどうか検討すべきだ。強固な人格権が2次創作時のリスクになれば、経済的不利益にもなり得るだろう」(中山氏)

●欧米レベルでないと「恥ずかしい」?

 「保護期間が欧米と同レベルでない日本は恥ずかしい」——そんな声が著作者側から出ることもある。中山氏は「戦後60年経っても日本は欧米コンプレックスを抜け出せていない」と斬り捨てる。

 「文化審議会でも『恥ずかしい』という意見が出るが、なぜ恥ずかしいのかが分からない。米国の著作権法は『ミッキーマウス法』と呼ばれるように特定団体のプレッシャーでできたもの。それを物まねしないのがなぜ恥ずかしいのか。

 『金の問題ではなくリスペクトの問題だ』と言う著作者もいるが、リスペクトと著作権保護期間は関係ない。保護期間は独占的利益を享受できる期間であり、金の問題。外圧があると、外圧をテコにして利益を図る人が出てくるものだ」(中山氏)

●非親告罪は「コミケ的」モデルを壊す

 「今年初めてコミケに行ったのだが、すばらしかった」——チェン氏は話す。コミケで販売されている2次創作品は、著作者に許諾を得ていないものがほとんど。著作権者が黙認している状態だが、「コミケの2次創作には愛情と尊敬があり、違法行為のために行われているわけではない」(チェン氏)。

 著作権侵害が非親告罪化すれば、著作者が黙認しても著作権侵害を起訴できるようになり、黙認を前提にしたコミケのような2次創作文化が成り立たなくなる。

 久保田氏も非親告罪化には批判的だ。「そもそも親告罪だからこそ、ACCSのような団体も権利者と協力して違法行為対策できる。非親告罪化して米国にどんなメリットがあるか分からない」

●日本型モデル、海外発信を

 「日本のコンテンツは強い」とチェン氏は言う。「海外のどこに行っても、日本の漫画やアニメの話で盛り上がれる。日本はもっと胸を張って日本スタンダードを考えるべき」(チェン氏)

 ネットでコンテンツが流通する時代。どういう制度なら著作者も利用者もハッピーになれるか——アニメなどネットで流通しやすい“国際コンテンツ”を持つ日本から制度を考え、発信することも重要だ。「日本はもっと自信を持って情報発信し、海外でもエンフォースメントすべきだろう」(久保田氏)

 違法コピーによるプロモーション効果も注目され始めている。「NapsterをはじめとしたP2Pファイル交換ソフトは問題にもなったが、従来の音楽産業の手が届かなかったところまでプロモーションができるという可能性を示した。ネットに流れた日本のアニメを海外のボランティアが翻訳する“ファンサブ”なども出てきている」(チェン氏)

 「ネットにコンテンツが流れることを、ただ違法だ違法だと言うだけではもったいない。ファンサブを作るファンは、現地で日本のアニメが出る時は協力させて欲しいと版権元企業にFAXまでするそうだが、日本企業は対応できていない。いいコンテンツがあって、海外にもファンがいる。シーズはあるのだから、これにうまく対処できるかどうかで今後5〜10年が決まるだろう」(チェン氏)

 その対処法——ネット時代の新しい著作権のあり方——の具体的な姿はまだ見えてこない。「答えを持っている人はまだいないだろう。日本モデルの模索には、時間をかけた議論が必要」(福井氏)

 久保田氏は、現行法上できちんとエンフォースしていくことがまずは大切と説く。「法と電子技術、教育をバランス良く整備していけば、著作権に関する問題は契約ベースで解決できるはず。日本は著作権に関する教育や侵害対策を進め、違法コピー率も劇的に下がった。このモデルはアジアなどに広げていけるだろう」

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