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2007年08月20日(月) 06時05分

名古屋のイラン人抗争、原因は薬物の客つき携帯争奪朝日新聞

 名古屋市を中心に相次いで起きているイラン人同士の抗争について、「もしもし電話」と呼ばれる薬物の客つき携帯電話の奪い合いが原因だったとの見方を、愛知県警が強めていることがわかった。この携帯電話を多く所有した分だけ、薬物密売の縄張りを拡大することができるためだ。県警は7月、入管法違反などの疑いで逮捕したイラン人から13台の携帯電話を押収。すべてが「もしもし電話」だった。

愛知県警がイラン人から押収した「もしもし電話」や薬物販売による売上金=瑞穂署で

 国際捜査課や瑞穂署などの調べでは、イラン国籍の住所不定、無職ターブット・ラフマニ被告(31)から押収した携帯電話には、1台当たり数十人から数百人の顧客が登録されていた。ラフマニ被告は名古屋市を拠点とするイラン人グループの幹部とされる。

 「三河は5000万円、名古屋は1000万円」

 こうささやかれるほど、電話1台の取引価格の相場は高い。薬物を求める客の間に口コミで広まった、この「もしもし」とだけ答える携帯電話が販売の主要な窓口となっているためだ。荒稼ぎをして母国に帰るグループのボスが、高値で仲間に引き継いでいくケースも多いという。

 今年、イラン人の抗争が愛知県内で激化しているのはなぜか。県警は、名古屋市と豊橋市をそれぞれ拠点とするイラン人グループが、三河地区での客と、それにつながる「もしもし電話」を奪い合っているとみている。同地区は、自動車産業の下請け工場などで働く日系ブラジル人が増え続けており、「飽和状態の名古屋に比べて新規顧客が増えている」という。

 2月に起きた名古屋市瑞穂区での発砲事件とそれに続く6、7月の千種区や中区でのイラン人の連れ去りは、縄張りを荒らされた豊橋グループが名古屋グループのメンバーを襲ったとの見方が強い。三つの事件とも薬物の取引が活発化する「週末の深夜」に発生した。金曜日に夜遊びをする多くの人たちが抗争に巻き込まれかねないため、県警は先月、組織犯罪対策局長名で全署にイラン人抗争を警戒するよう異例の文書を出した。

 イラン人の犯罪グループは仲間内でも関係が薄いという特徴がある。やりとりは携帯電話が主体で、お互いの住所や本名は絶対に明かさない。強いリーダーが現れると、仲間を裏切ることも珍しくない。国際捜査課は「緩やかな連帯が組織解明を難しくしている」と手を焼いている。

 今回、大量の「もしもし電話」を押収したことで「しばらく抗争は沈静化するかもしれない」と県警幹部は期待する。一方で、別の幹部は「暴れているイラン人自体を捕まえないと意味がない」と警戒感をにじませる。

http://www.asahi.com/national/update/0819/NGY200708190020.html