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2007年08月15日(水) 00時00分

小池 対 守屋 防衛次官夏の陣読売新聞


報道陣の質問に答える小池防衛相(14日午後2時56分、防衛省で)=田村充撮影

 防衛省の次官人事をめぐり、小池防衛相(55)と守屋武昌防衛次官(62)との対立が激しさを増している。小池氏は当初、在任4年を超える守屋氏を交代させる人事を15日の閣議で決定しようとしたが、塩崎官房長官らは認めず、27日に予定される内閣改造後に先送りされた。混乱は、長引けば改造人事そのものにも影響を与えかねない事態となっている。両氏は14日午後も防衛省内で会談したが、物別れに終わった。(政治部 杉田義文、望月公一)

クーデター

 一連の騒動は、暑い8月7日早朝から始まった。

 守屋氏は新聞朝刊を見て仰天した。自分の退任が報じられているが、小池氏から何も聞いていない。後任には、警察庁出身の西川徹矢官房長(60)が就任するという。防衛省に駆けつけ、小池氏に真偽を尋ねた。

 「その通りよ。昨晩電話したけど、出なかったじゃない。残念だったわね」。小池氏の言葉に、守屋氏は叫んだ。

 「絶対に認められない! 就任1か月の大臣に、人事の何がわかるんですか」

 小池氏はこの日の午後、米国に出発する予定だった。西川氏に残りの省内人事案作りを託したという。

 守屋氏は西川氏を問い詰めた。「……大臣に言われ、人事案を作りました」。小さな声で説明する西川氏に、守屋氏はまたどなった。

 「恥を知れ! 次官に報告しないで、何のつもりだ」

 次官室外まで響く怒声に、職員はつぶやいた。「これは“クーデター”だ」

根回し不足

 訪米から帰国した小池氏は13日午後、首相官邸で塩崎官房長官と向き合った。「人事は、内閣改造で選ばれた次の大臣が決める」

 小池氏の構想を塩崎氏が冷たく突き放すと、小池氏はこう詰め寄った。

 「現職大臣の責任をもって、西川氏を次官に推したい。首相にも説明済みだ」

 言葉は、小池氏が進退をかけているように響いた。

 小池氏は就任前から、防衛省について「幹部人事の停滞で後進が育っていない」と感じていた。特に守屋氏は、確執があった久間前防衛相の辞任後、目立って続投に意欲を見せ始めていた。小池氏は“退任通告”の時機をはかっていた。

 小池氏は訪米前日の6日、官邸に首相を訪ね、守屋氏退任の人事構想を伝え、根回しを済ませたつもりだった。誤算だったのは補佐官時代からそりが合わない塩崎氏の抵抗だった。省庁の幹部人事は、正副官房長官による「閣議人事検討会議」を経て決まるが、これを無視した小池氏に塩崎氏は不快感を隠さなかった。

 一方、守屋氏は後任人事で巻き返すため、旧防衛庁生え抜きの山崎信之郎(しんしろう)・運用企画局長(60)を次官に充てる人事案を手に、首相官邸関係者などと水面下で接触を始めた。

密約説

 「私を『マダム・スシ』と呼んでください」

 小池氏は9日のワシントン市内での講演で、ライス米国務長官の名前をもじり、冗談を飛ばした。訪米が成功すれば、防衛相続投の芽が出るとの声もある。

 守屋氏は今、「大臣の訪米土産に自分のクビが切られた」とぶちまけている。

 沖縄の米軍基地問題に取り組んできた守屋氏は、「沖縄とは厳しく交渉する」が口癖だ。昨年5月の普天間飛行場移設計画策定の際は「地元の意向を無視し過ぎる」と、強く批判された。

 守屋批判の強い沖縄では今、小池氏が守屋氏の退任を「取引材料」に、普天間移設問題を一歩進めるステップを踏んだとの“密約説”で持ちきりだ。現状では沖縄県が受け取りを拒否している環境影響評価の方法書を、小池氏は7日、沖縄県に送付した。守屋氏に退任通告した日だ。小池氏はそのまま訪米し、8日、ゲーツ米国防長官に方法書送付を報告したのだった。

 省内がざわつく中、14日午後、小池氏と守屋氏は改めて会談した。小池氏が再び西川氏の次官就任に協力を要請したのに対し、守屋氏はこう言い放った。「私のクビはいいが、役所としてはそんな人事は絶対に認められない」。会談は20分で終わった。


度胸に定評…小池防衛相

 カイロ大卒の中東通で、アラビア語が堪能。高校時代の夢は外交官だった。元テレビキャスターで、弁舌もさわやかだ。環境相時代に「クールビズ」運動を定着させた。05年の衆院選では、郵政民営化関連法案の反対票組への“刺客”を真っ先に志願し、自民党圧勝の立役者となるなど、度胸には定評がある。だが、所属政党を転々とし、「時の実力者に取り入るのがうまい」との評も消えない。

強面だが細やか…守屋防衛次官

 強面(こわもて)の風貌(ふうぼう)だが、意外に神経は細やかで、国を思う気持ちは人一倍熱いとされる。困難視された防衛庁の省昇格も、国会に周到に根回しし、今年1月に実現させた。沖縄問題に長くかかわり、普天間飛行場移設をはじめとする米軍再編問題では陣頭指揮をとってきた。ただ、「親しい“身内”ばかり重用しすぎる」と、その剛腕ぶりには、批判も強い。旧防衛庁時代を通じ、生え抜き次官としては5人目。

大臣留任かそれとも…内閣改造に難題

 防衛次官人事を巡る騒動が表面化し、27日に予定されている内閣改造に向け、安倍首相は頭の痛い問題を抱えることになった。首相は、7月に就任したばかりの小池防衛相を留任させる方向で検討してきたとされるが、騒動が長引けば再考する必要も出てくる。

 2002年1月、田中真紀子外相が野上義二外務次官を更迭しようとして混乱を招いた際には、小泉首相は田中、野上両氏を更迭した。小池氏も今回の騒動で、周囲から「このままでは真紀子の二の舞いになる」と注意されたという。

 防衛省は米軍再編で、沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の代替施設を建設するキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)の環境影響評価手続きを開始した。11月1日で期限が切れるテロ対策特別措置法の延長問題も抱えている。省内のきしみが、こうした重要課題に悪影響を及ぼすのは確実だ。

 安倍首相は14日夕、「人事はまだ何も決まっていない。防衛省は国の安全保障を担っている。この国民の生命と財産を守る役所に、ふさわしい人事を考えていかなければならない」と述べ、事態を静観する姿勢を強調した。

閣議人事検討会議  各省庁の局長以上の幹部人事を決める際、首相官邸側が事前に審査する会議。メンバーは正副官房長官。省庁が提示した人事案件を審議するために随時開く。橋本政権時の1997年5月に設置された。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe7700/fe_022_070815_01.htm