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2007年08月08日(水) 19時05分

市民司法参加、手法にお国柄 裁判官100人が視察朝日新聞

 全国の刑事裁判官が海外で裁判の様子を集中的に視察している。2年後の裁判員制度の開始を控え、市民が裁判に参加してきた歴史を持つ「先輩」たちに学ぶのが目的だ。法律のプロとして、事件の背景や動機をとことん調べて全体像を明らかにしようとする「精密司法」を実践してきた日本の裁判官。市民の意見を反映させる裁判員制度をうまく運用していくため、視察の成果を生かしながら意識改革の真っ最中だ。

 各国への派遣は最高裁が04年度から始めた。裁判員制度の導入時に、裁判長を務める可能性が高い刑事裁判官が対象。1人1カ国ずつで毎年約20人を10日〜3カ月ほど派遣し、5年間で約100人を予定している。

 裁判員制度のもとでは100人超が裁判長になるとみられ、今回の派遣人数もそれに合わせた。

 「様々な国の市民の司法参加の形をじかに見てきて、その中から裁判員制度に生かせる部分があれば」と刑事局は期待する。

 裁判所の市民との接し方や評議の進め方と並んで、裁判官たちが注目するのは事実認定のあり方だ。7月上旬、8カ国の裁判を見た19人が集まった座談会の場でも、この点の報告が相次いだ。

 ドイツの参審制を見た裁判官は「日本に比べると事実認定がややラフな印象があった」。イタリアの参審制を見た裁判官も「刑事裁判に真実の発見をそれほど期待していないのかも」と話した。

 日本の刑事裁判は、検察官、弁護人が時間をかけて精密な証拠を積み上げ、難解な法律論も駆使しながら裁判官が厳密に事実認定を進める特徴がある。「プロ同士の裁判だったため、国民には難しく、時間もかかり過ぎて敬遠される面もあった」とベテラン刑事裁判官は語る。

 裁判員裁判になると、参加する市民に過度な負担をかけないために、主張・立証する争点を絞り、事実を認定する「核心司法」に転換していくことが必要とされる。

 参審制と陪審制が併存するデンマークの裁判を視察した裁判官は、事件の核心部分に徹底的に絞った形で証人尋問が行われていることを報告した。それが可能な理由として、法曹三者の関係が緊密で成熟した大人の関係が成立している▽社会的背景として刑事裁判に動機を含めた全体像の解明が求められていない——ことを挙げた。

 ただ、日本でも可能かどうかは「方向性としてはデンマークのような運用を実現しなければならないが、弁護人の意識や国民性の問題から難しいと思う」と語った。

 裁判官たちは、日本の社会が「裁判の場で動機も含めて真相を解明せよ」との期待を持っていることも実感している。

 「核心司法」と真相解明をどう調和させていくか。それぞれの国に、長年の運用により制度が定着してきた歴史があり、座談会は「日本でも即座に答えはなく、裁判員制度の趣旨を生かして核心司法を定着させていくには、制度の地道な運用を重ねていくしかない」という結論で一致した。

 座談会の内容は冊子にして研修などで活用していくという。

http://www.asahi.com/national/update/0808/TKY200708080322.html