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2007年07月21日(土) 03時03分

コムスン、介護報酬請求で「水増し」指示…全事業所へ文書読売新聞

 訪問介護大手「コムスン」(東京都港区)による介護報酬の不正請求問題で、同社が全国のケアセンター(訪問介護事業所)に対し、利用者に提供している掃除などの生活援助サービスの一部を、報酬の高い身体介護サービスに変更するよう一斉に指示していたことが20日、同社の内部文書でわかった。

 不必要なサービスの上乗せによる水増し請求は事業所単位だけではなく、組織的にも行われていたことになる。介護保険法違反の可能性もあり、厚生労働省は同社から事情を聞く方針だ。

 同社のケアセンターは2006年6月時点で1183か所。文書は、同年4月からの改正介護保険法施行を前に、本社の事業本部から2月2日付で出された「『訪問介護事業』対応基本方針」で、各ケアセンターに送られた。

 この制度改正では、介護給付費抑制のため、訪問介護事業では介護の度合いの軽い人への給付額が減らされた。掃除や洗濯などの生活援助サービスについては、法改正前は30分ごとに報酬が加算されていたが、1回のサービスにつき1時間半で打ち切られることになった。たとえば、サービス提供が2時間の場合、報酬は約3700円から約2900円に減額になる。

 文書では、同社が行っている約84万件の訪問介護サービスのうち、約5万件が打ち切りの対象になると説明。その対策に「生活援助を2時間提供していた場合、そのうち30分を身体介護に変更する」として、「要介護1」以上のすべての利用者を対象に、報酬が加算されなくなる分を一律に身体介護サービスに切り替えるよう指示している。

 身体介護は入浴を手助けしたり、食事を食べさせたりするもので、生活援助よりも報酬が高い。2時間のうち30分を身体介護にすれば、報酬は約4800円に増える。文書では、変更は〈1〉自立支援ケアの実践〈2〉非常勤ヘルパーの給与増〈3〉売り上げ増——という結果を生むとして「これこそが厚労省が事業所に目指させているもの」としていた。

 昨年4月に開かれた本社の戦略会議では、変更が行われたかどうかの達成率が支社別に公表され、平均(72%)を下回っている支社は、達成率を上げるよう厳しく求められた。

 九州地方の元センター長は、「利用者の実情にかかわらず、変更するよう指示された」と証言。変更できないと理由を聞かれるため、食事の味見を一緒に1、2分程度しただけで身体介護にしたり、実際にサービスをしていなくても報酬を請求したりしたこともあったという。

 コムスンを巡っては、東京都などの調査で、一部の事業所で介護保険対象外の散歩への付き添いを「身体介護」と申請するなどしていたことが明らかになったが、本社の指示を受け、こうした水増しが行われた可能性もある。

 介護保険法は、利用者の心身の状況や選択に基づいて、適切なサービスが効率的に提供されなければならないとしており、一律の変更は同法違反にあたる。厚労省老健局の古都(ふるいち)賢一振興課長は「一律のサービス変更は不適切。指示の趣旨について事情を聞きたい」と話している。

 これについて、コムスン広報室は「法改正を機に、利用者の自立支援を図ろうとサービス内容の見直しを提案した。不正請求の意図はない」としている。

 立教大の高橋紘士教授(介護保険論)の話「コムスンは軽度者にサービスを大量に提供することで、売り上げを確保してきたので、不要なサービスを抑制する制度改正への危機感があったのではないか。介護報酬を支払った自治体は、不要なサービスや過大請求がなかったかを調査すべきだ」

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070721i201.htm?from=main2