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2007年07月05日(木) 00時00分

地デジ番組の「コピーワンス」規制に抜け道読売新聞

ガードがあるのは日本くらい、不便なのは普通の視聴者

ハイビジョン品質で地デジ放送をパソコンに録画できるハイビジョンキャプチャーボード「PV3」

 最近、ファイル交換ソフトで、地上デジタル放送の番組がやり取りされている。しかも、ハイビジョン(HD)品質でだ。地デジ放送には厳重な著作権保護の仕組みが施されており、満足にコピーすらできないはず。ファイル交換できるようなHD品質の番組ファイルなど、流通はおろか、あってはならないはずでは?

 現在、日本の地デジ放送と録画機器にはコピーガードがガチガチにかけられている。放送波には「コピーワンス」という複製防止信号が乗っており、視聴者は1回しか番組をコピーできない。ただ、地デジ対応HDDレコーダーやテレビパソコンで番組を録画する場合、録画自体がコピー1回とカウントされる。番組の複製は作れず、保存用にDVDへコピーした場合は、「移動(ムーブ)」するという考えに則り、ハードディスクにある録画内容は消去される。

 書き出したDVDにもしっかりコピーガードがかけられ複製はできない。外で見ようとiPodに転送しても「ムーブ」なので、元映像は消去だ。地デジチューナーをVHSデッキやアナログチューナー搭載のテレパソにつないで録画しようとしても、録画機器がコピー禁止信号を検知して録画を自動中断する。

 とにかく、アナログ放送ならできることが、地デジではいろいろとできなくなっている。自由にコピーできる地デジ番組の映像ファイルなど存在しないはずなのだ。

規制を出し抜く一部ユーザー

 現在、ファイル交換ソフトでやり取りされている地デジ番組の映像ファイルは「PV3」というハイビジョンキャプチャーボードを使って作られたものが多いようだ。このボードは、アナログハイビジョン用のD端子を備え、D端子を持つ地デジチューナーをつなぐと、ハイビジョン番組を1280×1080ドットの動画としてパソコンに記録できる。

 むろん、コピーガード外しのための製品ではないが、記録後は何の制限もなく、編集やコピー、ファイル形式変換など自由自在だ。PV3は発売以降、入手困難な状態が続き、現在はメーカーが製造を終了、基本的に購入できない。オークションでは定価の倍近い5万円前後で取引されている。開発元のアースソフトは「将来、競合製品がない、収益が見込めるなど環境が許せば開発・販売はしたい」としている。

 一方、デジタル信号のまま地デジ番組をコピーフリーでパソコンに記録できるのでは、と一部の注目を集めているのが台湾製の「GameSwitch」というHDMI端子切り替え器だ。ハイビジョン映像をデジタル信号のまま家電同士でやり取りするHDMIケーブルを2分配する機器だが、この機器を通すと、HDMI信号に含まれるコピーガード信号が除去される。地デジチューナーのHDMI端子と、HDMI端子を持つキャプチャーカードの間にこの機器を挟めば、地デジ番組をコピーフリーでパソコンに録画できるのでは、と話題になっている。ただし、使い方次第では不正競争防止法、著作権法に抵触する可能性が高い。

アメリカなどはコピーガードなし

 「コピーワンス」は視聴者に大変評判が悪く、総務省は2005年にコピーワンスの見直しを放送事業者、機器メーカー、著作権利者に提案している。これを受け、有識者による委員会は2年以上にわたり見直しを検討してきたが、この3月、各者の思惑が交錯する中でたどり着いたのが「ムーブの回数を増やす」というオチだった。

 実は米国を始め諸外国では地デジ放送にコピーガードなどはかけていない。ハリウッド映画も、ディズニー作品も放送局が放送すれば普通にパソコンで録画できる。この点に関して日本の放送局や権利者は「我々が世界で一番進んでいるのだ」と胸を張る。

 一部のパソコンユーザーは今後も、あの手この手で地デジの番組をコピーフリーでパソコンに録画するだろう。そして、普通のユーザーは、2011年のアナログ放送終了以降、地デジの不自由な世界に追いやられることになりそうだ。(フリーライター・南部健司/2007年6月23日発売「YOMIURI PC」2007年8月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20070705nt0c.htm