記事登録
2007年07月05日(木) 02時02分

個人情報保護 「過剰反応」の解決に必要な法改正(7月5日付・読売社説)読売新聞

 学校や自治会の名簿や連絡網が作れなくなった。企業や団体が当然公開すべき情報の提供を拒否する——。

 こうした個人情報保護法の「過剰反応」問題を解決できるのか、疑問が残る結論である。

 国民生活審議会の個人情報保護部会が過剰反応対策として、法の運用の改善などで対処するとの意見書を内閣府に提出した。焦点の法改正は見送られた。

 過剰反応の多くは、現行法に対する誤解が原因だ。法の周知徹底を図れば、必要な情報は提供される。そもそも過剰反応は一時より落ち着いてきた。

 そうした判断が、現状維持色の濃い意見書につながったのだろう。

 しかし、現実には、過剰反応は各方面に広がり、深刻な影響が生じている。

 高齢者や交通遺児の支援団体は、行政機関などから情報が入手しにくくなり、活動に支障が出ている。学校などの名簿がなくなったため、交流が減り、人間関係が疎遠になった、との指摘も多い。

 部会は、こうした「匿名社会」の実態と問題を軽視しているのではないか。

 5000人以下の情報を扱う団体などは法の対象外のため、通常の規模の自主防災組織や自治会は、名簿を作成する際に規制を受けない。

 人の生命や身体の保護に必要な場合などは、本人の同意なしで情報提供できるとの例外規定もある。例えば、家電製品の欠陥が発覚した場合、修理や回収を行うメーカーに販売店が顧客情報を提供することなどを認めるものだ。

 部会の論議では、公益性が認められる場合なども、この例外規定の対象とするよう法改正すべきだとする意見が出た。だが、意見書は、「法改正の必要性も含め、更なる措置を検討していく」とし、法改正については、今後の課題とするにとどまった。

 個人情報保護法の主たる目的は本来、電話やダイレクトメールによる執拗(しつよう)なセールス活動などに、本人には無断で、情報が悪用されるのを防ぐことだった。

 学校内などでの情報共有や、公益的な活動を行う非営利団体への情報提供までが制限されるのは、本末転倒だ。

 無論、法に対する誤解は解く必要がある。意見書の提言通り、政府は、法の内容に関する広報啓発活動に「最大限の努力」を傾けるべきだ。金融、医療など22分野で35のガイドライン(運用指針)を総点検し、必要な情報が円滑に提供されるよう見直さねばならない。

 だが、それで過剰反応問題が解決されるだろうか。やはり、法改正に踏み込むしかないのではないか。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070704ig90.htm