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2007年05月17日(木) 03時01分

変死の解剖、わずか9%…犯罪・欠陥事故見逃しの恐れ読売新聞

 全国の警察が2005年に扱った変死体のうち、解剖されたのは全体の9%で、13万4905遺体は外見と触診だけの検視で死因が判断されていたことが、関係省庁の内部資料などで分かった。

 わが国の解剖率は先進国中、最低レベルで殺人事件や多発死亡事故の見逃しにつながっている。日本法医学会は、17日から秋田市で開かれる学会総会での議論などを踏まえ、死因究明制度見直しについて国への要望活動を本格化させる。

 警察庁と厚生労働省のまとめによると、05年の交通事故関係を除く変死体数は14万8475体で全死者の14%にあたる。変死体は、警察官らが検視し、犯罪性があると判断されれば、刑事訴訟法に基づいて司法解剖される。ほかの死因不明遺体は、知事の判断による行政解剖や、遺族の了承を得ての承諾解剖が行える。05年の司法解剖は4942体、行政・承諾解剖は8628体で総解剖数は1万3570体だった。

 北欧を含む先進国は日本と同じく検視を経て解剖し、解剖率は20〜100%と高い。わが国は地域格差も大きく、神奈川県の解剖率は29・3%だが、鹿児島県は0・9%にとどまる。

 日本法医学会員らは、解剖率が低いと、〈1〉死因の判断ミスが増え、犯罪が見逃される〈2〉伝染病などが見逃されて公衆衛生上の危険がある〈3〉死に至るメカニズムが解明されず、ガス器具による中毒事故の多発などが気づかれない——と指摘。

 実際に、茨城県で2000年に起きた保険金殺人事件では、強い酒を飲まされて殺されたとされる男性が解剖されないまま病死とされ、被告の1人が上申書で告白するまで事件が発覚しなかった。

 解剖率の低さの背景には、行政解剖のできる監察医制度を持つのが、政令で東京23区と横浜、名古屋、大阪、神戸の4市に限られていることがある。承諾解剖では、身内の遺体を傷つけることに遺族が拒否反応を示すことが多い。費用面でも、国費で賄われる司法解剖に対し、行政・承諾解剖は都道府県か遺族の負担となり、05年に10体以下しか行われなかったのは27道県に上る。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070517it01.htm?from=top