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2007年05月07日(月) 06時44分

公衆電話、20年で39万台に半減 災害時への懸念も朝日新聞

 公衆電話が急速に姿を消している。携帯電話に押され、設置台数はほぼ半減。街頭にぽっかり空いた「跡地」を狙う新ビジネスも急成長中だ。その一方で防災関係者の間には、災害時の連絡手段がなくなると心配する声も上がっている。

公衆電話の跡地に登場したコイン式のパソコン=東京都江東区内で

 明治期の1900年、国内で初めて「自働電話」(公衆電話)が登場したJR上野駅。かつては公衆電話が並ぶ「でんわの家」に、発祥の地を示す銘板が掲げられていた。現在は共に撤去され、代わりに「あゝ上野駅」の歌碑が立つ。

 NTT東日本、西日本によると、NTTが発足した85年当時は91万台の公衆電話があったが、06年3月末には半分以下の39万台に減った。駅や公共機関、店先などにあるものは、NTT側が委託契約を結んで置いているが、02年からは利用額が月4000円に満たない電話は設置先に撤去を求めるようになり、減少に拍車がかかっている。

 公衆電話を駆逐したのは携帯電話だ。05年度までの10年間で、携帯電話とPHSの人口普及率は9.4%から75.5%に急増したが、テレホンカードの販売枚数は20分の1以下に激減。NTT東日本、西日本の公衆電話事業の赤字は05年度に144億円に達している。

 NTT東日本は「通話回数は毎年2割ずつ減り続け、下げ止まる気配はない。値上げも公衆電話離れを加速させるだけで、電話自体を減らすしかない」と説明する。

 鉄道会社などは、ぽっかり空いた跡地の有効利用に頭を悩ませる。まとまって撤去されれば自動販売機やコインロッカーを置くが、ほとんどは狭すぎて使い道がない。

 そんな中で、大勢の人が行き交う「一等地」に目をつけ、急成長しているビジネスもある。

 富山市の精密機器メーカー「東洋電子工業」は、100円で10分間インターネットを使用できるパソコン「アットステーション」を開発した。跡地にすっぽり収まるうえ、公衆電話と同様に設置者はコインを回収するだけというのが売りだ。

 00年12月、名古屋空港に第1号を誕生させて以来、6年余で全国の空港やホテル、病院など約500カ所、1400台に拡大。西崎一雄社長は「電話跡地は回線と電源がそろい、パソコンに最適。跡地は増える一方だから、数年のうちに3000台にまで増やせる」と意気込む。

 一方で公衆電話は、地震などで一般電話や携帯電話が規制されても、つながりやすい「優先電話」の側面を持つ。避難経路などを示した防災マップに、公衆電話の場所が記されることも多い。

 しかし、NTTに義務づけられている「第1種公衆電話」(約11万台)の設置基準は、市街地なら500メートル四方、その他は1キロ四方に1台ずつ。それ以外は経営判断で撤去でき、いざという時に防災マップ上の電話が残っているかどうかはわからないのが実情だ。

 地域防災研究所(横浜市)の大間知倫(おおまち・ひとし)所長は「公衆電話を減らすことは、非常時の通信手段を弱めること。公的負担を含め、維持策を考えるべきだ」と指摘。対するNTT東日本は「災害時には、避難所に特設電話を行き渡らせる。公衆電話網を維持するより、携帯電話やインターネットと補完しあう方が有効なはず」としている。

http://www.asahi.com/life/update/0504/TKY200705040165.html