面積が四国ほどで、EUでは最も小さい国のひとつのスロベニアが、ブリュッセルにあるEU代表部のスタッフを3倍近くに増やした。現在は約140人。夏までにさらに約30人増員する。08年1〜6月に回ってくるEU議長国に備えるためだ。
04年5月にEU加盟を果たしたばかり。「全欧州レベルの安全保障政策に関与できるなど、小国の我が国には考えられなかったほど可能性が広がった。議長国は非常にやりがいがある」。イゴール・センチャール代表部大使(41)は意欲を隠さない。
EUでは、加盟27カ国が半年の持ち回りで議長国を務める。今年前半を受け持つドイツが「環境政策」を重点課題に挙げるなど、議長国はそれぞれのテーマを定めるのが普通だ。小国であっても、やりようによっては欧州全体を動かすことができる。
EUの行政機関である欧州委員会が提案する法案は、年間約250に達する。加盟国による法律制定や改正の6〜7割がEU法に対応するためといわれる。EUが決める法律が、加盟国の政策を決定的に左右する。
EUパワーが及ぶのは域内だけではない。
「地球温暖化対策で、欧州は世界の先駆けになる」。メルケル独首相は9日のEU首脳会議後の記者会見で、こう宣言した。議長国としてポーランドなどの反対を押し切り、太陽光など再生可能エネルギーの利用拡大義務づけで、加盟国の合意を取りつけた満足感が表れていた。
欧州委は今年中に、再生可能エネルギーの利用割合を2020年までに20%に引き上げる法案をつくる。EUは日本や米国、中国などにも同調を呼びかける方針で、欧州を超えたグローバル・スタンダード(世界基準)づくりで主導権をとる姿勢を鮮明にした。
環境分野だけではない。6月には、化学物質の登録や安全性評価を企業に義務づける新たな規制を導入する。化学物質の安全基準で世界に先行し、域内企業の競争力強化にもつなげるのがねらいで、日本企業も影響を受ける。強力な独占禁止法を背景に、米大手企業の合併を阻んだ例もある。「EU基準」が世界を動かす局面は急速に増えている。
EUは域内人口が4億9千万人を超え、域内総生産(GDP)は約11兆ユーロ(約1700兆円)と米国に並ぶ。旧ソ連圏を含め欧州全域の統合を成し遂げたことがパワーの源だ。
欧州統合の出発点になったのが、52年に発足した欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)。57年調印のローマ条約ではEEC設立を決め、後のEUの基礎を築いた。ローマ条約はその後の改正をへて、現在のニース条約に続いている。
こうした「統合の深化」と並行して「拡大」も進めた。ECSCの加盟国は仏、西独(当時)、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの6カ国。その後、15カ国に増え、04年5月には旧ソ連圏諸国など10カ国を一気に仲間に加えて、東西欧州の再統合が実現した。
■「ベルリン宣言」めぐり不一致
EUは24、25両日、ローマ条約調印から50年を祝う特別首脳会議をベルリンで開き、欧州統合の意義を強調する「ベルリン宣言」を発表する。だが何を宣言に盛り込むかについて、加盟国の間の不一致が目立ち、文書作成はぎりぎりまでもつれ込みそうだ。
まず問題になったのが、単一通貨ユーロの扱い。ユーロ導入を見合わせている英国は「宣言」で言及することに消極的だが、ルクセンブルクのユンケル首相は「EUの成功例として挙げるべきだ」と主張する。
「将来の拡大」についても、加盟交渉が始まっているトルコの仲間入りに警戒感が強い。ポーランドのカチンスキ大統領は「キリスト教の価値に言及すべきだ」と訴えるが、政教分離の観点から賛同者は少ない。
「宣言」は首脳同士の全会一致で決める。混乱を防ぐため、議長国ドイツのメルケル首相は8日のEU首脳会議で、文案づくりの「議長国一任」を取りつけた。水面下で各国と接触し、議論の噴出を封じ込める作戦だ。
「宣言」作成は、フランスとオランダが05年、EU憲法条約の批准を国民投票で否決したことをきっかけに持ち上がった。両国の「否」は、巨大化・複雑化したEUに対する市民の警鐘と受け取られた。欧州統合の意義を市民に再認識してもらうためにも、ごたごたの種になるのは避けたいのが大方の本音だ。
このため「宣言」は平和や安定、単一市場の実現などを欧州統合50年の成果として挙げつつ、「A4判2ページ程度」(EU関係者)の簡潔なものになりそうだ。