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2007年03月23日(金) 00時00分

灰の中から“粋返るか”神楽坂…老舗有名店から出火ZAKZAK

 繁華街・神楽坂で3月19日午後、火事が発生、料亭や旅館など5棟約400平方メートルが焼失した。この火災で、火元とみられるおにぎり店「わかまつ」の女将、諸橋栄子さん(86)ら3人の女性が軽症を負った。

 80年の歴史を持つ「わかまつ」は、老舗として地元でも有名だった。

 「芸者置屋をやっていた養母が亡くなった後、女将が40歳ぐらいで芸者らを相手におにぎり屋を始めたのがきっかけ」と語るのは、神楽坂のエリアマガジン「神楽坂まちの手帖」(季刊)の平松南編集長(63)。

 平松さんは、不二家問題で注目された「ペコちゃん焼」を作る不二家飯田橋神楽坂店の社長でもある。

 「わかまつ」の名物という焼きおにぎりは、「手にズッシリとくるボリュームで、秘伝の醤油ダレがおいしい」(平松さん)。花柳界全盛期は、一晩に200から300個のおにぎりを運ぶ人気店だったという。

 生まれも育ちも神楽坂の平松さんによると、神楽坂は、芸者置屋と料理屋、待合い(お座敷)の三つが集まる「三業地」と呼ばれていた。昭和33年に待合いが条例で禁止になり、料理屋が座敷を持つようになり、現在の料亭に変わっていった。

 ただ、かつての花柳界も今や斜陽の時代を迎えている。平松さんは「古い店舗は居酒屋やバーになったりしている。『わかまつ』はその中でも昔のやり方を守り、頑固にやっていたのに…」と嘆く。

 火事のあった「かくれんぼ横丁」は料亭や旅館が集中し、昔ながらの黒塀が残り、特に風情ある通りとして知られる。

 「わかまつ」の2軒隣に住み、危うく難を逃れたアマチュア写真家の持田晃さん(72)は「50年住んでいるが、こんなに近くで火事騒ぎがあったのは初めて」と驚く。

 神楽坂の魅力に取りつかれた持田さんは町の変遷を50年以上前からフィルムにおさめ続ける。

 「交通の要所でありながら、昭和の面影を残す“粋”な町。こんな町は他にない。(この火事で)新しいものをつくるにしても、『かくれんぼ横丁』の雰囲気を大事にしてほしい」

 テレビドラマの舞台になるなど、古い町並みが人気の神楽坂。ただ、木造家屋が集中するだけに今回のような火災の危険性はつきまとう。

 都市計画を策定する新宿区都市計画課は「今月中にも方針を決めていく。地元のみなさんの声を極力反映していくつもりだ」と答えた。建物の風情は火事で焼け落ちたが、神楽坂の“粋”は、どうやら残りそうだ。

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ZAKZAK 2007/03/23

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