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2007年03月22日(木) 13時12分

「無党派争奪」首都の陣 政党、参院選へ前哨戦朝日新聞

 今夏の参院選へと続く政治決戦の幕開けとなる第16回統一地方選挙の知事選が22日、13都道県で告示された。数値目標や達成期限を明記したマニフェストの配布が今回から解禁され、候補者らは格差是正や財政再建などを争点に未来図を掲げて戦う。民主党が「原則相乗り禁止」を打ち出したことで、北海道、岩手、東京、神奈川、福岡の5都道県で自民、民主両党が推薦したり、実質支援したりする候補が激突する。注目される東京都知事選は、3選をめざす現職の石原慎太郎氏に前宮城県知事の浅野史郎氏らが挑む。石原、浅野両氏とも無党派層を取り込むため、表向きは政党色を薄める戦術をとるものの、それだけでは勝算が立たず、石原氏は自民、公明両党、浅野氏は民主、社民両党の支援を受ける。自民、民主の2大政党は両氏の背後に引きつつも、参院選の前哨戦として都知事選を最重視せざるを得ない。4月8日の投開票に向け、全国最大の無党派層を奪い合う首都決戦は、候補者と政党が互いの弱みを補完し合う「二層構造」の戦いとなっている。

都知事候補者の演説に拍手を送り、真剣な表情で聴き入る有権者たち=22日、東京都内で

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 石原氏の選挙スタイルは今回、一変した。

 「思わぬ苦戦を強いられています」

 第一声の場所は、過去2回立った新宿区内ではなく、都西部のベッドタウン、立川市だった。告示前の自民党の情勢調査で、無党派層の多い同市を含む多摩地区で浅野氏にリードされていると伝えられたことに危機感を持ったからだ。

 政党との「間合い」も変えた。初当選時(99年)は自民や民主の推薦候補らを破った。前回(03年)も政党から距離を置くことで無党派をひきつけた。だが、今回は身内重用や高額な海外出張費問題などで批判を受け、「前回取った300万票の力はない」(陣営関係者)。さらに改革派知事として知られた浅野氏が参戦し、実際の選挙戦では自民の組織力に頼らざるを得なくなった。

 第一声の横には、自民党都連会長の長男伸晃氏が並び、十数人の自民党都議が選挙カーを取り囲んだ。同党都議団は「石原選挙対策本部」を立ち上げ、連日2人ずつ交代で電話で支援を呼びかける。陣営は「組織は手堅く固めなくては」。

 一方の浅野氏。

「失われた8年を取り戻し、東京をつくり直すために立ち上がりました」

 新宿で第一声を上げた浅野氏に寄り添った支援団体の広報車は、民主党から提供されたものだった。党のシンボルマークを隠していた。支援団体にも民主党職員が派遣され、ポスター張りをする勝手連を束ねる。

 ただ、選挙カーの上に民主党幹部の姿はない。浅野氏は「候補者が歌手なら、政党は指揮者ではなく、伴奏する立場。有権者に私の歌を聴いてもらうために、一歩下がってもらう」と説明する。

 93年に宮城県知事選で初当選した時には、新生党や日本新党など4党の推薦を受けた。しかし、その後は無党派を自任する。ある民主党都議は「陣営からは具体的な指示がない」とぼやく。支援団体内には「地縁も血縁もない首都の戦いだけに、政党の力に頼らなければならなくなる」との声も漏れる。

 「なぜ政党の支援を隠すのか。目の前で見え見えのウソをつかれているみたいだ」。候補者の中でただ一人、主要政党(共産党)の推薦を受けた吉田万三氏は、両氏を痛烈に批判する。

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 13知事選の中で最も注目される首都決戦。だが、その号砲が鳴った22日朝、自民、民主の両党の党首クラスはいずれもマイクを握らなかった。

 1月の宮崎県知事選で、政党の支援を受けないそのまんま東(東国原英夫)氏が自民、公明両党の推薦候補らを破り、有権者の「政党不信」が顕在化した。安倍内閣の支持率が低迷する一方、民主党の支持率も伸び悩む中、政党が前面に出れば無党派層が逃げる——。実質支援をしつつも裏方に回るという都知事選での戦い方に、いまの自民、民主両党が抱えるジレンマが見える。

 自民党は「首都の首長は、ある意味大統領と同じで国の顔。民主に取られたら大問題だ」(選対幹部)と下支えに動く。

 「候補者は推薦を辞退したが、自民党は実質支援したい。友党の公明党にもお願いしたい」

 自民党の石原伸晃都連会長は14日、公明党東京都本部代表の山口那津男参院議員の事務所を訪ね、父親である慎太郎氏の支援を頼んだ。公明都本部は告示日の22日になって支援を決めた。

 推薦を辞退されても、ここまで自民が肩入れするのは、参院選で石原氏が自民候補を支援するという「見返り」を約束されているからでもある。安倍首相は22日、首相官邸で「夏の参院選、さらに将来の衆院選にも統一地方選の結果が影響を及ぼす。党として全力をつくしてもらいたい」と記者団に語った。

 一方の民主党も、民意の受け皿を作り切れていない。今回の13知事選で独自候補擁立を模索し、現職の衆院議員や衆院の立候補予定者を投入した。しかし、東京は土壇場まで決まらず、一度は打診を拒んだ浅野氏が立候補を決意したことで、どうにか支援する相手を確保できた。

 22日朝、菅直人代表代行の第一声は、JR札幌駅前だった。北海道知事選の民主党推薦候補の横で「この戦いは、東京や福岡など多くの知事選を含め、日本のこれからの針路を選択する」と気勢を上げた。この言葉は、本来なら東京で叫びたかったのだろう。それができない自省の弁を前日の札幌市内での集会で語っていた。「まだ民主党自身の努力が不足している」

 政党は、夏の参院選を「天下分け目の戦い」と位置づける。その行方を左右するのは無党派層の動向だ。最大の無党派層を抱える東京で、その支持を引き寄せ、党勢拡大の波を作り出せるか。力不足にあえぐ2大政党の戦いも始まった。

http://www.asahi.com/politics/update/0322/006.html