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2007年03月20日(火) 23時36分

初任給引き上げの動き 狙いは人材 賃金底上げは望み薄朝日新聞

 春闘をきっかけに新入社員の初任給を引き上げる動きが広がっている。大手電機や重工業各社は大卒で月額1500円〜2000円の大幅引き上げに踏み切り、中小でも前向きに取り組む企業が出ている。戦後最長の景気拡大を背景に人材確保競争は激しくなっており、「待遇アップ」で学生を引きつけようという狙いだ。労組側は「春闘での大きな成果」と歓迎するが、賃金全体の底上げにはつながりそうにない。

 大手電機メーカーの労組などでつくる電機連合は今春闘で、初任給について大卒1500円、高卒1000円の引き上げを求めた。賃金が長く抑えられた結果、若年層の賃金が他業界よりも低くなった、と主張。産業別の労使交渉でも経営側に「優秀な人材をとるためには初任給は重要」と積極的に訴えた。

 経験豊富な「団塊の世代」の大量退職を迎えるなか、経営側も「持続的な発展を支えるには質の高い人材が必要」との判断で一致していた。新卒者の「売り手市場」が定着し、人材の激しい争奪戦が展開されていることもあって、松下電器産業など大手各社は組合側の要求に満額回答。4月入社の大卒初任給は20万3500円、高卒は15万6000円にアップすることになった。

 初任給の引き上げは2年連続。電機連合は「経営側の理解もあり大きな成果を出せた」とする。

 春闘を経ず、経営側が自主判断で引き上げたところも多い。三菱重工業は大卒初任給を4月から7年ぶりに2000円上げて、20万2000円とする。石川島播磨重工業と川崎重工業はともに8年ぶりの引き上げ。住友重機械工業は900円上げる。

 鉄鋼大手のJFEスチールは、4月入社予定の116人の新入社員の初任給を大卒、大学院修了ともに2000円上げる。引き上げは03年4月の会社発足以来初めてだ。横並びだった初任給を他社に先駆けて引き上げ、優秀な人材の確保を図る。

 引き上げ額では3万1000円アップの三井住友銀行が大きい。地方銀行にも動きは波及しており、初任給の引き上げは今後も続きそうだ。

 ほかにも電力総連が900円以上の初任給引き上げを要求し、傘下労組が交渉を続けている。中小企業の労組が多くこれから交渉が本格化するUIゼンセン同盟も「引き上げに応じる企業が一部で出てきた」と評価する。

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 労組は「初任給の引き上げを中高年層を含む賃金全体の底上げにつなげたい」(連合幹部)と意気が上がるが、期待はずれに終わる可能性が大きい。多くの企業で賃金体系が多様化し、若年層の給料がアップしても中高年層の給料が自動的に増えるとは限らなくなっているからだ。

 従来の賃金体系は年功序列型が多く、同期の間での差もあまりつかなかった。初任給が上がればそれに突き上げられる形で2年目の社員の給料が上がり、3年目へと波及効果が期待できた。

 初任給の前年比増減率を見ても、長期的に低下傾向だったのが06年は大きく回復しており、07年も伸びが期待できる。労組側の期待が膨らむのも無理はない。

 だが企業の賃金体系は多様化し、初任給が上がってもその後の「賃金カーブ」が一律に上がる時代ではなくなった。経営側は人材確保が難しい若年層に重点的に資金を回しても、人件費全体を抑制する考えは変えていない。第一生命経済研究所の永浜利広・主任エコノミストは「初任給アップの一方で、バブル期に大量に入社した社員の給料を抑える動きが目立つ」と指摘する。

 具体的には能力給を適用し、成果を上げる一部の社員以外の給料を低く抑える方法がある。永浜氏は「引き上げの動きは今後も続くが、給料の底上げ効果は限定的だ」とみている。

http://www.asahi.com/business/update/0320/159.html