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2007年03月19日(月) 00時00分

栃木産イチゴの残留農薬騒動  東京新聞

 栃木県特産のイチゴ「とちおとめ」から一月、基準の八倍を超す残留農薬が見つかった。昨年五月に導入されたポジティブリスト制度の効果だが、この騒動は同時に検査態勢の不備など同制度の問題点も浮かび上がらせた。 (渡部穣)

■「偶然」

 「まさかうちが、と驚きました」。JAかみつが(上都賀農業協同組合=栃木県鹿沼市)園芸特産課の石川一磨課長は、出荷したイチゴから基準違反の残留農薬が検出されたとの連絡を受けたときのショックをこう振り返る。

 問題のイチゴは一月十六日、出荷先の新潟市の保健所から残留農薬の指摘を受けた。食品衛生法の基準値の八倍を超える〇・四四ppmの殺虫剤「ホスチアゼート」が検出された。「農薬の使い方については昨年のポジティブリスト制度への移行もあって、気を付けるよう何度も指導してきたんですが…」(石川課長)

 ポジティブリスト制度は、使ってはいけない農薬を定めたネガティブリスト制に代わり、残留基準を設けることで使っていいリストとして定めた。対象種類も七百九十九種と三倍近くに増やし、規制を強化した。

 だが、今回の騒動は検査態勢の問題を露呈させた。新潟市の残留農薬検査は毎月一回、五種類の食品についてだけ。同市食品衛生課は「どれくらい調べるかは国のガイドラインがない」。たまたま同JAのイチゴを選んだにすぎない。

 しかも、同JA所属の百七十九農家のうち四農家のイチゴに疑いがあっただけで、「ポジティブリストに基づく違反が見つかったのは初めて。何万分の一の確率で見つけただけ」(同課)の「偶然」だった。

 国内農産物の残留農薬検査は、都道府県や保健所を設置する中核市など、全国百二十九の地方自治体が受け持つ。しかし、調べる検体数、農薬の種類、検査頻度はまちまち。新潟市は選んだ五種類の検体について六十六種類の農薬を調べるが、栃木県は二−四種類の検体の五十九種類しか調べていない。

 今回問題となったホスチアゼートは、出荷側の栃木県の検査リストにはなかった。同じイチゴは盛岡、東京、横浜の市場にも出荷されたが、基準違反を見つけたのは新潟市だけだった。

■手遅れ

 また今回、検査結果の確定に時間がかかり、食品衛生法に基づく回収ができなかったのも大きな問題。新潟市が調べたイチゴの違反が確定したのは見つかってから半月後の同三十一日。同法では違反が出た食品と同じ生産者と生産日の食品についてのみ回収を命令できるが、当該品は既に消費者に出回っていた。

 結局、違反が判明して以降、二月五日に農家が特定されて他農家のイチゴの出荷が再開されるまでの商品の回収、出荷の停止、検査は同JAの“自主判断”だった。同法は、同JAに原因の究明を求めただけだった。

 検査態勢の不備について厚生労働省は「地域によって状況が異なり、一律に決めるなど国が関与することではない」(監視安全課)と説明する。

 だが市民団体「反農薬東京グループ」の河村宏さんは「自治体によって調べられる農薬が三十から四百までと差がありすぎる」と批判。残留農薬に詳しい消費者運動家の安田節子さんも「危険なものがあると想定して排除するスクリーニングではなく、問題がないことを想定して確認するだけのモニタリングの検査しかしないからさまざまな問題がおきる」と指摘する。

 河村さんはこう強調する。「検査種類数を平均的に増やし、違反には原因の追究、検査の強化をさせて再発防止に努めないと、今回のイチゴのように『たまたま』の発見に頼るしかない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20070319/ftu_____kur_____000.shtml