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2007年03月19日(月) 00時00分

朝鮮版シンドラー・布施辰治の生涯を舞台に朝日新聞

 戦前、日本の植民地だった朝鮮半島の独立運動家の弁護などに力を尽くし「朝鮮版シンドラー」と呼ばれた人権派弁護士、布施辰治の生涯を描いた演劇「生くべくんば死すべくんば」が20日から、吉祥寺の前進座劇場で上演される。前進座にとっても辰治は、その発展を支えた恩人。団員らは彼の正義感と理想に思いをはせながら初日を迎える。

 布施辰治は1880(明治13)年、宮城県蛇田村(現・石巻市)の農家に生まれた。明治法律学校(明大の前身)を卒業後、判事検事登用試験に合格し宇都宮地方裁判所で検事代理を務めるが、すぐに辞任。貧しさゆえに母親が子供と心中を図った事件で、殺人未遂での起訴状を書くよう命じられたためだった。

 弁護士となった辰治は、当時日本の植民地だった朝鮮半島の独立運動家や、大逆罪に問われた朴烈夫妻の弁護など、人権・社会運動擁護に尽力。自身も弾圧を受け、治安維持法違反で投獄されるなどした。戦後は三鷹事件の弁護団長をはじめ、松川事件や血のメーデー事件などの弁護を担当。1953年9月、72歳で死去した。

 2004年、韓国政府が「建国勲章」を日本人として初めて辰治に贈るなど、その活動は今も高く評価される。

 舞台を演じる劇団前進座も、辰治と深い縁がある。1931年創設の同劇団は、37年、吉祥寺にけいこ場と住宅を兼ねた「演劇映画研究所」を開設。このとき土地の確保などに力を貸したのが辰治だった。その後も顧問弁護士として、長い間劇団の活動を支えた。

 舞台は、辰治が亡くなる年の3月1日の演説シーンから始まり、関東大震災など過去の様々なエピソードが、時間をさかのぼって繰り広げられる。作品タイトルは、辰治の座右の銘「生くべくんば民衆と共に、死すべくんば民衆のために」から付けられた。

 主役の辰治を演じる益城宏さん(53)は先月22日、出演していた別の舞台で肋骨(ろっこつ)5本を折る大けがを負ったが、入院中のベッドに今回の台本を持ち込み、せりふを練習。病院からけいこ場に通った。退院したのは初日の1週間前だ。

 辰治と同じ東北出身。「自分と同じなまりで弁舌をふるう辰治を、何としても演じたいと思っていた」という。

 演出の十島英明さん(72)は「上から救いの手をさしのべるのではなく、あくまで弱者と同じ立場に立とうとした。戦前にこういう人物がいたことは、もっと知られていい」と話す。いずれは韓国での公演もめざしたい、という。

 森正さん原案、十島さんと山口誓志さん作。公演は25日まで。一般5500円、学生2500円。問い合わせと申し込みは、前進座(0422・49・2633)へ。

http://mytown.asahi.com/tama/news.php?k_id=14000000703190002