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2007年03月16日(金) 00時00分

英融資疑惑で報道規制 東京新聞

 英国のブレア政権を揺るがす選挙資金融資疑惑で、司法とメディアのあつれきが増している。テレビで疑惑捜査の一端を報じようとした公共放送BBCに、司法当局が突然、報道の差し止めを命令。「報道の自由」をめぐる論議を呼ぶ一方で、あまりに過敏な報道介入の裏には、政権と司法の微妙な“つながり”も浮上し、疑惑を一層深める流れになっている。(ロンドン・岡安大助)

 ゴールドスミス法務長官の申請に基づき、裁判所がBBCに差し止め命令を出したのは、今月二日夜。十時のニュース番組が始まるわずか一時間前のことだった。番組の中で、著名な政治記者ロビンソン氏が「何も言えない」と、しどろもどろになった姿に、局内の混乱ぶりが表れていた。

 政府から独立して司法手続きを監督する立場の法務長官(検事総長に相当)が、異例の差し止め命令を出してまで封印に動くニュースとは一体何か。英メディアは「捜査当局が政府高官の起訴方針を固めたのでは」などと色めき立った。

 答えは数日後、明るみに出た。「ブレア首相の側近二人の間で融資疑惑に関連して『口裏合わせ』の打診があったことをにおわすメモが存在し、捜査の焦点になっている」−。英紙ガーディアンが六日付の一面トップで報じた記事だった。

 法務長官はBBC以外に、同紙と大衆紙サンにも同じような記事の報道自粛を要請。介入は計三度に及んでいた。

 五日夜に自粛要請を受けたガーディアン紙は「記事の事前規制はあってはならない」と拒否。

 法務長官はこのため、BBC同様の差し止め命令を出すよう裁判所に申請したが、既に新聞の印刷が始まっていたことを理由に却下され、長官の封印工作は結局、失敗に終わった。

 英国では「報道の自由」の原則に対し、司法当局の判断で、プライバシーの重大な侵害や起訴後の裁判への影響が予想される場合は、報道の差し止めが認められる。

 法務長官は一連の報道介入で、自粛要請の理由について「特定の情報開示が捜査に支障をきたす恐れがあった」との主張を繰り返した。だが、メディア法に詳しいロンドン大学のエリック・バレンツ教授は、疑惑の単なる周辺情報の報道にすぎない今回のケースが「(捜査妨害などの要件に)とても該当するとは思えない」と首をひねる。

 BBCは二日夜、命令に従い「口裏合わせ」のメモに関する詳しい報道は避けたが、声明を出して「融資疑惑への国民の関心は高く、合法的な報道内容」と反論した。

 命令は、ガーディアン紙の報道後に撤回された。BBCはそれを受け、一度は封印したニュースを放送し直したが、報道を振り回した一連の介入には納得せず、法務長官に「詳しい説明」を求めて提訴。国内に「報道の自由」論議を呼び起こしている。

 一方、この騒ぎで注目されたのが、ゴールドスミス法務長官とブレア首相との特別な関係だ。

 首相は二〇〇一年、一弁護士で政治経験のなかったゴールドスミス氏を法務長官に抜てき。

 〇三年のイラク戦争前、同長官は当初、国連決議なしでの開戦に疑問を示していたが、その後、開戦を容認する「法的見解」を閣議に提出。「首相側から働きかけがあったのか」とささやかれた。

 さらに昨年十二月には武器輸出をめぐる汚職捜査を、政府の意向で中止させたと批判された。

 高級紙インディペンデントは、この二件に続き「議論を呼ぶ三つ目の決断」との見出しで、今度の報道介入を皮肉った。

 その記事も示唆したように、長官の介入は、疑惑で窮地に立つ政権への「気遣い」だったとの見方が広がる中で、ブレア政権に対する国民の不信はひときわ強まることになりそうだ。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070316/mng_____kakushin000.shtml