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2007年03月15日(木) 00時00分

外国人支援変化の兆し朝日新聞

 木下俊輔さん(71)は、足立区の男女参画プラザで、中国、韓国、フィリピンなどから来た外国人に日本語を教えるボランティアグループ「かけはし」の会長だ。

 プラザに集まる外国人の母親から、「学校から来た連絡用プリントの内容が分からない」という相談がよくある。行事予定や検尿など健康に関するお知らせだが、難しい言い回しや難解な漢字が多かった。

 「学校の連絡は、せめてだれでも分かる文章にしてほしい」。昨年9月、区長も出席した「区政を語り合う会」で、木下さんは思い切って声を上げた。

 その場にいた区民部長が区教育委員会に働きかけ、区立の学校長に改善要請が行われた。

 写真関係の会社を退職した11年前、日本語ボランティアになった。動機の一つは、20年前に留学生のホームステイを受け入れたときの体験だ。周囲の日本人から好奇の目で見られた。「まだ排他的なところがある日本社会を変えたい」という思いが芽生えた。

 日本語ボランティアは最初、区の婦人センターが始めた。その後、担当が地域振興部、産業経済部と次々に変わった。活動について質問があっても「どこが窓口か分からなくなった」と木下さん。「行政に言ってもしょうがない。頼ることはしない」と決めた。

 現在も、活動費はなるべく自前にすることにし、会員から毎月200円を徴収して教材のコピー代などに充てている。

 足立区には06年1月現在2万1405人の外国人住民がいて、新宿区に次いで都内で2番目に多い。くるくる変わった区の担当は2年前、区民部にできた多文化共生担当となり、「日本語ボランティアの活動に積極的に取り組んでくれるようになった」。木下さんが声を上げた「語り合う会」も、外国人支援をテーマに区が初めて開いた。

 木下さんは「日ごろ感じていることを直接行政に言うことで、良い方向に動くこともある。(外国人を支援している)現場がものを言うことも必要だと感じた」。

 6月の区長選では新しい区長が選ばれる。「新しく区長になる人には外国人の実態を知って欲しい。就任したらぜひ、私たちのようなクラスを見に来て欲しい」と語る。

 外国人住民が一番多い新宿区では4月、外国籍の小、中学生のために教室と居場所を提供する協働事業をNPO法人と区が立ち上げる。

 主体となるNPO「みんなのうち」の小林普子(ひろ・こ)さん(58)は現在、外国人の子どもたちの学習支援をしている。

 同区立の小、中学校に通う外国人児童生徒は約380人いるが、外国人向けの日本語学級があるのは、区立大久保小1校だけ。授業についていけない子どもたちは、どんどん相談に来る。「1人では抱えきれなくなった」という。

 区の教育委員会に相談したこともあったが解決策とはならず、区が民間との協働事業の担い手を募集していることを知り、応募したという。

 「区民のほとんどは外国人の実態を知らないと感じる」と小林さん。

 そんな中、4月の区議選に、外国人支援を重点政策の一つに掲げた候補が出る予定だ。「色がつきたくない」と、NPOとしてはあくまでも中立を貫く。だが、個人としては応援したい気持ちがある。

 「これまで票につながらないとされてきた外国人の問題を受け止める人が選挙に出ることは、大きな進歩だ」と思うからだ。
(抦崎太郎)

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000000703150001