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2007年03月14日(水) 00時00分

【関連】同型機77件トラブル 事故機の前輪扉 ワイヤに障害か 東京新聞

 高知空港で十三日に起きた全日空ボンバルディア機の胴体着陸。国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会の調査官が現地入りし、高知県警が実況見分に入るなど原因究明が始まったが、車輪を出すための油圧と手動の二系統ある仕組みがともに働かなかったことから、大惨事につながりかねなかったとの指摘も出ている。これまでも同型機はトラブルが続出していたことも判明。「もう二度と乗りたくない」と不安の声が高まりつつある。 

 今回の事故で国土交通省が発した耐空性改善通報(TCD)は、胴体着陸から約六時間後という異例の早さだった。必要な整備や検査を航空会社に指示するTCDは通常、航空機メーカーを監督する外国政府が自国の運航会社に耐空性改善命令を出した後に出される。今回はボンバルディア社を監督するカナダ政府の命令を待たず、日本独自の判断で行った。前輪格納扉が非常時の操作でも開かなかった事態を同省が重視したためだ。

 前輪格納扉は油圧で開閉し、それでも作動できない場合は手動で扉のロックを解除する。自重で扉が開いて前輪も下りる仕組みだ。

 今回の事故では、油圧に加え、手動によるロックの解除もできない“二重”のトラブルが起きた。空気が混入するなどして油圧が働かず、車輪が下ろせなくなった同型機のトラブルは過去にもあったが、代替手段まで機能しないとなると大惨事につながりかねない。

 胴体着陸前に行った「タッチ・アンド・ゴー」という、主脚を滑走路に接地して再び飛び立った際の衝撃でも前輪格納扉が開かなかったことから、扉のロックを解除するワイヤが緩んで滑車から外れたり、ロック部分に異物が挟まったりして扉が固定した可能性も指摘されている。ワイヤなどは四千飛行時間ごとに行う点検項目で、離陸前の点検項目ではない。

 同省などによると、同型機は二〇〇三年から国内の近距離路線用に導入され、過去四年間に七十七件ものトラブルが発生。同省や運航各社が対策を検討している。事故原因が設計・製造によると特定された場合、同省はカナダ政府やボ社に対応を求める方針。

■乗客が家族あて克明メモ

 高知空港に胴体着陸した全日空機に乗っていた兵庫県尼崎市の会社員滝原勇さん(58)は、自分の名刺の表裏に、機内の様子や自分の思いを、時系列で克明にメモしていた。十三日午後、取材に対し「もしものときに家族に何が起きたか伝えたかった」と振り返った。(表記はメモのまま)

 「(午前)九時 高知空港でせんかい。二十分程して前輪おりずの機長アナウンス」(メモ)。機長の声は終始落ち着き、滝原さんは「何とかなるかな」と思っていた。

 「五十八分 トイレに立つ。同僚の顔があおざめてみえる」「十時二分 急せんかいで機能回復のアナウンス。高度上昇。急センカイして足がおりるものと思う」「十六分 どこが急せんかいや。いつものせんかいやないか」(同)。滝原さんは心配になり始めた。

 「二十二分 前輪完全に出ないけど、着陸体勢に入るという。そのショックでようすをみて決断するらしい。何の決断か」「二十六分 車輪、陸地にゴンとついて上昇。さあどうなる」「三十二分 何度も後輪を出し入れしている。むだな抵抗。前輪なしで着陸するらしい。何度もくんれんしてるやと。こんな訓練ほんまにするか?」(同)。「タッチ・アンド・ゴー」が失敗し、「ひょっとするかな」という思いが滝原さんによぎった。

 「三十七分 中央より後ろの席に移動。ペン、ネクタイとる ゴンゴンゴンゴーン」(同)。乗務員が「踏ん張って。頭を下げて」と何度も声を張り上げる。着陸の衝撃は普段と変わらなかったが、「ゴーン」と下から四、五回、軽い衝撃があった。「大きい衝撃が来るのでは」と身構えた。

 機内に拍手がわき起こった。一緒にいた同僚は手に汗を握っていた。ほっとした。最後に「五十五分 ぶじ着陸」と書き記した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070314/mng_____sya_____010.shtml