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2007年03月14日(水) 09時50分

第一生命、疾病特約の請求催促を中断 不払いの恐れ認識朝日新聞

 大手生命保険会社の第一生命保険が医療保険の「3大疾病保障特約」の一部で、96年の発売当初は契約者に対し保険金を請求するよう催促していたが、手続きの負担が大きいという理由で、発売後2年ほどで催促をやめていたことがわかった。この特約では今年1月に約1800件の不払いが発覚し、同社は「加入者が請求を忘れる事態は想定できなかった」と説明していた。実際には、第一生命側は催促しないと不払いになる可能性を認識していたことになり、顧客軽視の姿勢が不払い拡大を招いたと言えそうだ。

第一生命が実施していた請求督促の例

 3大疾病保障特約は契約者が、がん、心筋梗塞(こうそく)、脳卒中になった際、入院や手術費を補償する給付金とは別に、数百万円の一時金を払う契約。ただし、一時金受け取りには加入者が給付金とは別の請求手続きをする必要がある。93年に単品の保険として発売され、96年に特約として他の医療保険とセットで販売されるようになった。

 第一生命によると、特約の発売直後は、加入者が入院などの給付金を請求してきた際、3大疾病の患者であり、本人や家族に病名が告知されていることが分かれば、特約分の請求を促していた。ところが98年ごろ、会社として「催促しなくても特約分の請求も必要だと分かっている加入者が多い」と判断して取りやめたという。

 05年に加入者からの苦情を受け、06年2月に催促手続きを義務づけた。

 特約の支払い対象となる3大疾病のうち、がんは医師が患者本人には病名を告知していないケースもあり、同社は「請求の催促は事実上病名の告知につながるため難しかった」と説明していた。だが、実際にはすでに告知を受けていた加入者に対する催促も全面的に取りやめていた。

 3大疾病以外の特約についても請求しないままになっている加入者が多いとみられる。同社は金融庁の指摘を受けて不払い全体の件数を調査中だが、発表済みの1800件から大きく膨らむ見通し。日本生命、住友生命、明治安田生命など他社も同様の調査にとりかかっており、4月13日までに金融庁に報告することになっている。

 第一生命が請求催促をやめた背景には、「生保危機」で経営が追い込まれていたことがある。契約者に約束した利回りが運用難で確保できなくなり、97年には旧日産生命保険が破綻(はたん)。その後も中堅生保6社が破綻した。 生保各社は経営の健全性維持のため経費削減に追われる中、既契約者への保険金支払い部門よりも、新商品開発や新規契約を増やす営業部門に人員を割いた。

 規制緩和で様々な特約を組み合わせた複雑な商品が登場したのもこの時期だ。第一生命でも支払い部門の業務が増えて支払いが遅れる状況になったため、法律や約款で定められた「義務」ではない「請求の催促」を切り捨てたと見られる。

http://www.asahi.com/business/update/0314/076.html