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2007年03月14日(水) 01時16分

ドラフト希望枠、廃止濃厚 プロ野球代表者会議朝日新聞

 プロ野球12球団の緊急代表者会議が13日、東京都内のホテルであり、今年のドラフト(新人選手選択)会議から、選手が球団を選択できる「希望入団枠」が廃止されることが濃厚になった。会議では現行制度の維持について「白紙」とするにとどまったが、希望枠存続の中心だった巨人が希望枠を廃止した場合の代案を出すなど軟化。同じくソフトバンクの角田雅司代表も「アマがダメというなら撤廃でいい」と話したほか、複数の関係者が廃止の見込みを語った。21日、改めて代表者会議が開かれる。

代表者会議を終え記者会見する阪神の野崎取締役(左)と楽天の井上オーナー代行=13日午後、東京都港区で

球団側との折衝を終え記者に囲まれるプロ野球選手会の宮本会長(右)=13日午後、東京都港区で

 西武の金銭供与問題が発覚してから5日目。この日、もともと設定されていた選手会とのドラフト制度についての交渉を前に、球団の経営者側は立て続けに緊急会議を開いた。午前中、西武が所属するパ・リーグが理事会を開き制度について語り合った。6球団中5球団が希望枠廃止に賛成した。

 午後には、12球団の代表が都内のホテルに参集。陳謝した西武の代表者が退席した後、今月5日に決めた希望入団枠のある現行制度の維持を「白紙」に戻すことを決め、選手会との話し合いに臨んだ。

 「重い腰は上がると思う。それでも動かないのが野球界と思われているでしょうから、がんばらないと。ムードは悪くない感じは受け取れた」。日本プロ野球選手会の宮本慎也会長(ヤクルト)は、球団代表らとの交渉後、こう話した。選手会としてかねて主張していた希望入団枠撤廃への手応えが、口ぶりににじんでいた。

 選手会との折衝後、代表らだけで再び会議を開いた。終了後、楽天の井上智治オーナー代行は「一度、白紙に戻して、そこからもう一度、希望枠を残すという流れではない。廃止する流れだと理解してもらっていい」と言い切った。

 巨人の清武英利代表の口からは「希望枠をなくした場合のことを考えないと」。「高校生は上位球団から、大学・社会人は下位から指名する制度はどうかと提案した」。現行維持にこだわらない言葉が続いた。

■裏金発覚「前提崩れた」

 これまで、12球団は希望入団枠を存続させることでまとまっていた。ただ、希望入団枠の存廃で12球団の決を採れば「9対3」で廃止派の方が多かった。3とは、ソフトバンクと広島、そして巨人だ。

 2月に那覇で開かれたドラフト制度検討委員会。話し合いは巨人の清武代表がデータを持ち出して進めていった。「過去2年行われた現行方式で、1人あたりの契約金は下がった」「高校生と大学・社会人を分離することで、注目度も2倍になった」。現行制度に問題がないことを主張。「不正のうわさもなくなった」と委員会はまとまった。

 廃止を求める選手会については「入社試験の方式を決めるのに、組合に相談する必要はない」(日本野球機構関係者)と、突っぱねる予定だった。数で勝っているはずの「廃止派」は「声が大きい人がいるから……」と巨人に抵抗しきれなかった。

 3月9日。西武の金銭供与問題が表面化。「不正がないとの前提が崩れた」と廃止派の声が一気に強まった。

■アマも一致

 アマ球界も希望入団枠撤廃で足並みがそろう。「不正の元凶は希望枠。撤廃を求める」と言うのは日本高野連の田名部和裕参事。04年に、大学生だった一場投手(現楽天)が金銭供与を受けていたのとは違い、今回の当該選手は高校時代から金銭供与を受けていることが判明した。

 それだけに高野連がアマ側の結束を呼びかけた。全日本大学野球連盟の内藤雅之常任理事も「希望入団枠の撤廃には賛同する」。日本野球連盟の鈴木義信・副会長も「今回の裏金問題はドラフト制度そのものに問題がある」と話す。

 プロとアマ側との協議会は16日に開かれる。

■大リーグ 下位球団から指名、密約困難

 大リーグ(MLB)の広報担当者は、新人選手獲得を巡る金銭供与問題について「聞いたことがない」という。

 大リーグのドラフト会議は65年に戦力均衡を主な目的として導入され、前年度の下位球団から順に指名する完全ウエーバー制が原則。指名選手を即座に譲渡することもできないため「密約」は成立しにくい。ルール上も、球団側とアマ選手側との事前交渉は禁止されている。違反が発覚すれば、その球団と選手間の契約や合意事項は無効とされ、コミッショナーが関係者を処分することになっている。

 日米の球界に詳しい米スミス大のアンドリュー・ジンバリスト教授(経済学)は「日本球界のドラフトには例外(希望枠)があるため、球団が大金をかける価値がある。大リーグには例外が存在せず、球団に裏取引をするメリットがない」と指摘する。ただ米国でも、有力代理人の存在で契約金の高騰を恐れ指名を見送ったり、契約金釣り上げを狙い代理人が選手に契約させなかったりする。

     ◇

 〈キーワード:希望入団枠〉 社会人、大学生の有望選手に希望球団を選ばせるために93年のドラフトで導入された制度で、00年までは「逆指名」、01年から04年までは「自由獲得枠」と呼ばれていた。05年に「希望入団枠」に変更された際に、各球団これまで2人までの枠が1人に減った。

http://www.asahi.com/sports/update/0313/159.html