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2007年03月13日(火) 00時00分

大いなる違算 新庄市の財政(中)朝日新聞

 ∞「最上の中心」重い負担金

 山形新幹線つばさ号の到着を知らせるアナウンスが流れ、列車の待ち人が腰を上げる。ケータイ横目におしゃべりに興じるのは女学生。じっとイスに座っているおばあちゃん。

 暖冬の陽光が差し込む空間に、人々が集う。JR新庄駅に併設されている交流施設「ゆめりあ」の昼下がり。

 ●事務組合事業

 「夢」あふれる「エリア(地域)」をもじって名付けられたこの施設は、イベント広場や特産品売り場、会議室などからなる。幼稚園の発表会から行政の会議まで、市民に広く利用されている。

 地域の人口が年々減っていく現状をなんとか食い止めようと、新庄市など最上8市町村が、新幹線の新庄延伸に合わせ、99年12月にオープンさせた。鉄骨2階建て、総面積約5100平方メートル。雪国の「暗いイメージ」をぬぐおうと、全面ガラス張りになっている。

 駅利用者の見込みから、当初、年間90万人が利用すれば御の字と見込まれた。だが、開業直後は200万人を超え、ここ数年も年間180万人が足を運んでいる。地域住民には憩いの場として欠かせないものとなっている。

 新幹線延伸とともに突如、現れたモダンな建築のゆめりあは一方で、新庄市の財政危機の象徴的存在と見られている。

 「財政悪化の悪玉みたいに言われるが、利用者が来てくれていることが支えだ」。東谷重友館長の顔はさえない。

 総事業費は約60億円。うち50億円は起債して借金でまかなった。8市町村でつくる最上広域市町村圏事務組合が費用を分担しているが、うち新庄市が8割を負担する。維持管理費も毎年8千万円かかる。主催イベントを減らすなど、経費節減を図っているという。

 ●公債残高60倍

 ゆめりあだけではない。90年代後半から、事務組合の大型事業が重なった。

 し尿処理場(新庄市、96年)38億2千万円▽廃棄物最終処分場とリサイクルプラザ(舟形町、98年)47億7千万円▽ごみ焼却場(鮭川村、03年)57億6千万円。

 事業は当然、借金に頼らざるを得ず、事務組合の公債残高は89年から99年まで、2億2千万円から131億6千万円へ、ざっと60倍に急膨張した。「ダイオキシン対策などで建てなければならない施設が集中した。どれも市民生活にかかわるもの」と事務組合は説明する。

 これらの建設費も人口と処理量の割合を基本に計算され、新庄が5割近くを負担する。収入に対する借金返済の割合を示す実質公債費比率「29・9%」の中身のうち、4・8%分は、事務組合への負担金が占めている。

 ●合併が破談に

 04年、最後に残った舟形町との合併が住民投票の結果、破談になり、最上地区の市町村は自立の道を歩むことになった。最上の中心都市として、他町村より重い分担金を背負って財政が悪化。それが、他町村に嫌われる何とも皮肉な結果だった。

 「念願の新幹線ができた。都会にあるような施設が新庄に一つぐらいあってもいい。たしかに事業が集中して財政が厳しくなったが、無駄な事業はしていないつもりなんだが」。新庄市の財政担当者は「時期が集中した」と何度もつぶやいていた。

http://mytown.asahi.com/yamagata/news.php?k_id=06000000703130005