記事登録
2007年03月13日(火) 00時00分

【地域の行方】(6)集落の買い物朝日新聞

 ≡週1バスが心も満たす≡
  スーパーが送迎サービス

 「たいてい毎週乗るわいね。待てんときは自分とこの野菜で我慢するしかない。無くてはならんね」

 午前10時前。輪島市門前町千代(せんだい)で乗り込んできた茶野木ふさ子さん(80)は定員28人の席がぎっしり埋まったマイクロバスの補助席に腰を落ち着けた。乗客は近くの集落に住む70〜80代が中心で全員が顔見知り。車内ではさっそくおしゃべりに花が咲いた。

     ◇     ◆     ◇

 マイクロバスは、JAおおぞら(本店・穴水町)が直営するスーパー「Aコープもんぜん」(中川節志店長)が運行している。月曜日を除く毎日、1日1〜2便が旧町内の各集落を回って住民を乗せ、中心部のコープまで連れていく。店では1時間程度の買い物時間を取り、また客を送る。送迎は無料だ。

 運行は曜日ごとに計9コースが設定されている。茶野木さんが利用するのは穴水町寄りの集落、山是清から千代や黒島など12の停留所を通り、コープに至る約40分のコース。このコースは週に1回、水曜日だけなので乗車率はたいてい100%に近い。5年ほど前からバスを運転する石岡政彦さん(48)は「最初利用者は10人くらいだった。(車を運転する同居家族がいない)お年寄りが増えたんでしょう」と言う。

 茶野木さんが暮らす千代集落には路線バスが走っていない。子どもが金沢に移り、現在は一人暮らしだ。自分で畑を耕して野菜を作ってはいるが、日用品やおかずは週1回のコープへの買い出しなどでまかなう。

 午前10時過ぎ。バスがコープに着くと、茶野木さんらは一斉に店内に入っていく。食料品、お菓子、酒、雑誌、園芸品、100円均一商品……。カートを押しながらじっくり品定め。早めに買い物を切り上げ、年金や貯金をおろすなどの用事を済ませる人もいる。中川店長は「行商は商品を積む量が限られているし、ここには買い物をする楽しみがあるんじゃないですかね」と話す。コープにとってもバス利用者はお得意様だ。1カ月の売り上げの約2割を占めるという。

 1時間後。店から戻ってきた茶野木さんは日用品やおかずが入った小さめの段ボール箱やトイレットペーパー、花を抱えていた。「5千円も買ったよ」と顔をほころばせた。多くのお年寄りが仏壇にあげる花を買っている。「死んだばあちゃんにあげんと」「花あげたらいいことがあるかもしれんね」。帰りの車内はまた大にぎわい。「退屈しのぎになるし、みんなで話せるのがいいわいね」。口々に楽しげに話した。

     ◇     ◆     ◇

 旧門前町の公共交通は能登中央バスが走らせる5路線と派生する支線が支えている。ただ、本数は多くなく、山是清と町中心部を結ぶルートの場合、午前1本、午後3本。かかりつけの医院や市門前支所などに用があって朝バスに乗って町に出れば、戻ってくるまでに半日以上かかる。それだけに山是清の一つ手前の江崎集落の女性(83)は「コープの送迎バスは午前中に行って帰って来られるから便利」と話す。

 旧門前町の商店が加盟する町商工会によると、現在、旧町内の商店は70〜80店ほど。ピーク時の約半分まで減っている。“移動スーパー”など行商に頼る集落もあるが、現在営業しているのは1、2業者程度のようだ。

 送迎バスの運行はバス会社への委託で、1便1万円。経費は年間で450万円かかる。旧門前町ではこの20年で人口が3割減っているが、大泉豊秋組合長(64)は「年寄りの足は用意してやらんと。みんなあてにしているから。希望者がいる限り続けていく」と力を込める。

(榊原謙)

http://mytown.asahi.com/ishikawa/news.php?k_id=18000000703130005