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2007年03月13日(火) 00時00分

岩国住民投票から1年/知事・市長に聞く朝日新聞

  米軍岩国基地への空母艦載機移転に投票者の87・4%が「ノー」の意思表示をした旧岩国市の住民投票から12日で1年。この間、県は容認姿勢を打ち出し、国は在日米軍再編計画を着々と実行に移しつつある。一方、岩国市では住民説明会などで依然反対の声が多く聞かれ、国と市の協議は膠着(こうちゃく)状態が続く。今後どう解決に導くのか。井原勝介市長と二井関成知事に聞いた。

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◆ 問題続々、不安広がった/井原・岩国市長 ◆

  ——住民投票を振り返ってください。

  「問題がこじれたとか無駄だったとか言う人がいるが、岩国の在り方を市民が直接考えて、意思表示が出来たよい機会だった。合併で自治体としては変わったが、政治的に結果は重いと思う」

  ——投票結果が示した民意は変わりましたか。

  「財政問題や国による新庁舎の補助金計上見送り、愛宕山地域開発事業などいろいろな問題が絡んで市民に不安が広がったと思う。だが大切にしないといけないのは、一番影響を受ける基地周辺地域の住民の声だ。そういう人たちの観点から言えばまだ不信感や不安は根強く、そういう意味で民意は変わっていない」

  ——国は市が移転を容認しなくても強行するのでしょうか。

  「一方的に進めるのは難しいと思う。沖縄は移設問題が10年間全く進まず、とうとう閣議決定も変わってしまった。これまで移転が行われたのはすべて自治体が合意したところだ」

  ——「撤回」から「容認できない」へと市長の言葉は変化しています。

  「言葉の問題であって本質は変わらない。少し言い方は変えたりするが、『撤回』も『容認できない』も一緒。考えは変わっていない。いまだに安全・安心が担保されておらず、住民に根強い不安がある」

  ——国と今後どう協議をしていきますか。

  「国防政策と住民生活のバランスをどこで取るのかという問題で協議し、よい方向性を見つけていかないといけない。だから容認か撤回かではなく、色々な選択肢があるのではないか。国との協議の中で解決策を探って、お互い合意していかないといけない」

   (聞き手・川村剛志)

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◆ 身動き取れぬ状況 残念/二井知事 ◆

  ——地方自治での住民投票をどう考えますか。

  「しっかりとした住民投票制度のない現状では、地方自治体の課題には住民が選ぶ首長と議会が議論して解決し、責任を果たす『代表民主制』が基本だ。個人的には住民投票条例を提案するつもりはない」

  ——昨年の住民投票を振り返ると。

  「市長は県や旧由宇町との協議中に踏み切り、信頼関係を損ねた。今もその思いは変わらない」

  ——今の岩国市の反対姿勢をどう思いますか。

  「企業誘致と違い、艦載機に『ぜひ来てほしい』とは誰も思わない。だが全国の自治体が反対したら、防衛政策は成り立たない。いつまでも反対を言い続けるだけではなく、地方の立場で安心・安全との接点を見いだすべきだ。自治会などで閣議決定を踏まえ、現実的対応の動きが出てきた。住民の考えもかなり変わってきたと思う」

  ——国は米軍再編に向け施策を進めています。

  「防衛政策の一翼を担う地域には、それに伴う経費を国が負担するべきだ。再編関連の法律も示し、その大きな姿勢を感じる。だが、騒音などに対する具体策がないため、住民に不安がある」

  ——県と市の関係をどう再構築しますか。

  「軍民共用化を国に要望すると『市の考えは変わりましたか』と聞かれる。県が市の気持ちを伝えるメッセンジャーに過ぎず、ジレンマだ。愛宕山開発は赤字を出すよりも中止して、その解消策を考えるべきだ」

  「まずは市と市議会が議論してほしい。そして私も引き続き協議したい。住民に近い市の苦しさも理解できる。ただ、県も同じように身動きが取れない状況は残念だ」

   (聞き手・金子元希)

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◆ 愛宕山開発・軍民共用空港化…解決すべき課題山積 ◆

  艦載機移転に対する市民の反対姿勢を井原氏は「変わってない」と言い、二井知事は「変わってきた」と見る。両者の考えの違いは際立つが、急ぎ共同で解決すべき課題が山積している。

  一つが岩国市の愛宕山地域開発事業だ。巨額の公費負担軽減を視野に県が転用策を検討すると、国は「艦載機移転後に増える米兵とその家族用住宅の候補地」と関心を示した。だが市議会は事業中止と継続で割れ、愛宕山周辺の住民からは相次いで米軍住宅化反対の声が上がっている。

  岩国基地に民間機が乗り入れる軍民共用空港化計画は、羽田空港の発着枠の拡大をにらむと、07年度政府予算に関連予算が盛り込まれることが実現のタイムリミットとみられている。国は具体的な計画立案を県と市に求めており、6月ごろに予定する地元からの予算要望までに計画をまとめる必要がある。国は「容認しないと予算化はない」「共用化は再編に理解を得る施策」と明言しているが、ここでも県は「共用化実現は艦載機移転が前提」と考え、市は「別問題」と主張し割れている。

  市が移転に反対するために国の補助金が見送られた市庁舎建設費について、市は合併特例債で穴埋めする考えだ。だが市議会内には異論がある。

  いずれも「移転容認で状況は変わる」(県幹部)課題。だが解決の糸口はまだ見えていない。

http://mytown.asahi.com/yamaguchi/news.php?k_id=36000000703130004