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2007年03月12日(月) 22時55分

社会や歴史認識前面に 新国立劇場・鵜山次期芸術監督朝日新聞

 演出家の鵜山仁が、新国立劇場(東京・初台)の次期芸術監督(演劇)として動き出した。今年9月から始まる最初のシーズンの演目を発表し、「言葉」を大事にする方針を打ち出した。同劇場小劇場では今、演出作「コペンハーゲン」が再演中。栗山民也・現監督が企画した公演だが、鵜山が重視する「社会や歴史への認識を言葉を通して考える演劇」を象徴する作品でもある。

●「言葉の重みを考える」

 先頃行われたラインアップ発表で鵜山は、「大きな物語」の再生▽「新劇」の再発見▽アジアとの出会い▽同時代の新しい作家との出会い、という四つの指針を示し、様々な意味で戯曲に重きを置く姿勢を鮮明にした。それは、批判も踏まえた上での「新劇」の見直しといえる。鵜山の考える「新劇」とは——。

 「社会や歴史への問題意識を前面に出し、そこからどういう言葉を発することが出来るかを考える演劇。その意味で、これまで新国立劇場でやってきたものの多くは『新劇』だったと思います。社会全体から語彙(ごい)が減っていると感じる。それにあらがい、言葉の重みを考えてゆきたい」

 その代表的な演目が08年5〜6月に自身が演出する木下順二作「オットーと呼ばれる日本人」。「新劇がはぐくんできた言葉と、世界が緊密に合体した戯曲。四つの指針のすべてに触れる、僕にとってシンボリックな作品」と言う。

 翻訳家とともに海外の新作戯曲を研究し、リーディング公演などにつなげるプランもあり、2年前に開設された研修所とも連携を深める考えだ。

 「退屈なようでも、こうした基盤整備を執念深くやりたい。演目は(任期の)3年かけてバラエティーを持たせようと考えている。個々の作品にもスーパーバイザーとして参加するつもりです」

     ◇

 「コペンハーゲン」は、英国の劇作家マイケル・フレインが、第2次大戦中に2人の物理学者がナチス占領下のコペンハーゲンで会った謎の一日を題材に書いた(平川大作翻訳)。登場人物は、ともにノーベル賞受賞者のボーアとハイゼンベルク、そしてボーアの妻。原爆開発をめぐる史実と物理学の理論に、人間存在の不確かさといった主題を重ね、舞台はスリリングに展開する。01年に鵜山演出、江守徹、今井朋彦、新井純の出演で初演され、高い評価を受けた。

 今回ボーア役が江守から村井国夫になった。

 鵜山は「初演より広いイメージを持って取り組んだつもり。2人の学者には父子のような関係がある。村井さんには、ボーアの持つ父性とその葛藤(かっとう)の表現を期待し、応えてもらいました」と話す。公演は18日まで。電話03・5352・9999(劇場)。

http://www.asahi.com/culture/stage/theater/TKY200703120153.html