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2007年03月12日(月) 06時15分

甘くない!イチゴ市場「戦国時代」 品種改良激化朝日新聞

 新種のイチゴが次々と市場に出回っている。その一方で、消費者の心をとらえられず、短命で姿を消す品種もある。真っ赤なイチゴのブランド戦争が過熱している。

品種別の登録年次/品種別の06年産イチゴの出荷割合

 首都東京の青果の台所、大田市場。福島の「ふくはる香」など3品種は、この冬初めて大田市場に登場した新品種だ。静岡の「紅ほっぺ」、熊本の「ひのしずく」、茨城の「ひたち姫」などの出荷も本格化している。

 10年前、大田市場で扱うイチゴといえば、栃木の「女峰(にょほう)」と、九州の「とよのか」ばかりで、全体の9割以上を占めていた。ケーキ需要などで値段が高騰するクリスマスを狙い、全国の農家が収穫時期の早い2品種をこぞって育てたからだ。

 だが今、出荷量では栃木の「とちおとめ」が約3割、次いで福岡の「あまおう」や佐賀の「さがほのか」が約1割。残る約5割は、甘さや香り、皮の柔らかさなどで対抗する新興の約20品種で占められている。

 高級フルーツを扱う千疋屋総本店(東京)の大島有志生(うしお)さんによると、「イチゴは、大きさと甘さの競争が激しい。以前は1個の重さが平均30〜40グラムだったが、今は50〜60グラム。糖度も昔主流だった甘酸っぱいイチゴが9〜10度だったのに比べ、13度を超えるものまで出てきた」という。

 イチゴの品種改良に詳しい独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所(三重県)の望月龍也さん(54)は「通常、イチゴの品種改良には13年近くかかるが、今は『とにかく新しい品種を』の時代。8年程度で市場に出されてしまう」と指摘する。

 色が薄かったり、赤黒かったりして消費者に敬遠され、いつのまにか市場から姿を消す品種もある。どの品種を育てるのか、生産者にとっても大きな賭けになる。

 神奈川県厚木市で観光イチゴ園を営む杉山潔さん(84)は、「さちのか」「章(あき)姫」「紅ほっぺ」の3品種を栽培する。「紅ほっぺありますか」と事前に確かめる人もおり、「消費者がブランドに敏感になっているのを感じる」と話す。

 付加価値を高めるための作戦も様々だ。

 福岡の「あまおう」、熊本の「ひのしずく」のように他県での栽培を許さない「単県ブランド」も増えている。その訳を福岡県の担当者は「栽培が難しい品種。他県が生産して、甘くも大きくもない『あまおう』が出回れば、ブランド低下につながり困る」と話す。

 徳島の「ももいちご」のように、あえて東京に出荷しないものもある。まるくて皮が柔らかく、汁気が多い「ももいちご」は、大阪市中央卸売市場の大卸・大阪中央青果だけで扱われている。クリスマスの頃には16個で1万円を超える高級品だ。大阪中央青果でイチゴ農家の指導にあたって40年以上の上田晴彦さん(74)が、協定を結んだ徳島県佐那河内村の農家28軒だけに栽培させている。「収穫量が限られ、日持ちがしないこともあるが、販売ルートを集中させたほうが価格的に有利」と判断したためだ。

 品種改良の激化は、まだ収まる気配がない。3月は果物の冬枯れの時期。大田市場の大卸・東京青果の加藤宏一さんは「スイカやメロンが出回るゴールデンウイークまでの主力果物として、イチゴへの期待はますます高まる」と予想する。

http://www.asahi.com/business/update/0312/016.html