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2007年03月12日(月) 00時00分

大合併の足元で <独立独歩>朝日新聞

◇集落守る選択 今逆風

 国道439号から山あいの細い道を車で約30分南下すると急に視界が開け、緑色の棚田が広がっていた。 三津子野地区の上村謙三さん(80) と美子さん(74) さん夫婦は約2千平方メートルの棚田で、米を作っている。 若い頃から続けてきたが、2人きりでの農業は体力的に難しくなってきた。 しかし第三セクター「大豊ゆとりファーム」 に頼めば、田植えは1反(約1千平方メートル) 7千円でやってくれる。 「うんと助かっちゅう」。 町が合併すればサービスが低下するのではという心配から美子さんは合併に反対した。

 四国山脈の中央に位置する大豊町は、02年に周辺2町1村との合併が持ち上がった。 しかし住民アンケートで「貧乏な町同士が一緒になって何が良くなるのか」 「行政サービスの低下が心配」 と反対派が多く、町は「独立独歩」 の道を選んだ。

 町が力を入れる事業の一つが、高齢者への農業支援だ。 町の高齢化率は県内一の50・62%で、町によると、農業従事者約1100人のうち、65歳以上の高齢者は600人を超えるという。

 「都会の人は知らないと思うけど、人間が手を入れないと集落は山にのまれるんです」。 岩崎憲郎町長が力を込める。 町南部の峯地区は林の合間に9軒の家が散在するが、「昔は60戸の家と棚田が広がるにぎやかな集落だったのに……」 と区長の杉本潤次郎さん(79) は振り返る。 放棄された田にはたちまち草木が茂り、集落自体を覆う。

 96年に町と農協は計1550万円を出資して、農作業の受託や農産物販売を手がける第三セクター「大豊ゆとりファーム」 を設立した。 しかし三位一体改革による補助金カットなどの逆風を受け、同社は02年から赤字に転落した。町は06年に「増資」 という形で5千万円の運営資金を投入した。 同社の吉村優二副社長(44) は「採算のとれる仕事ではない。 でも町を守るために必要な仕事だと確信している」。

 同社に感謝しているという美子さんだが、「でも、このままあと10年もしたら町はどうなるか……。 いつかは合併しないとやっていけんのかもしれない」 という。 杉本さんも迷いを感じ始めている。 「高齢者ばかりで、主な産業は農業と林業だけ。 何か新しいことをしないと、町は落ち込む一方だ。 合併はそのきっかけの一つになったのかもしれない」  (渡辺芳枝)

●高知の合併状況●
 04年10月に伊野町、吾北村、本川村が合併し、いの町が発足。 06年3月に2市2町が発足するまで、10組の合併で4市6町が新たなスタートを切った。 自治体数は9市25町19村が、11市18町6村に。 自治体数は53から35に減った。 春野町は02年に町議会が高知市との合併協設置議案を否決したが、現在は08年1月1日の高知市との合併を目指し県に申請をしている。

◇各県を見ると◇

★愛媛★ 財政状態良好な松前町
 県内で唯一、合併しない選択をしたのが松前町だ。 03年に3市町と「伊予地区合併協議会」 を設置したが、新市庁舎の場所や各支所との役割分担を巡り意見が対立。 04年2月に「独立」 を決めた。05年3月には職員数や給与を減らすなどの対策を盛り込んだ行革大綱を策定。 05年度の実質公債費比率は12・7%で、県内市町で2番目に良好な財政状態を保つ。 

★香川★ 三木町 単独事業も着々
 5市38町から8市9町への合併が進む中、独立を選んだ三木町は高松市のベッドタウンで人口約3万人。 国の交付金への依存度も高いが、05年度の実質公債比率8%は県内2位の低さで、財政は比較的豊かだ。 高松市が02年に合併検討会設置を呼びかけたが、「吸収されれば住民サービスの低下は避けられない」 と断った。 大規模な下水道整備を単独で進めている。 

★徳島★ 仕事増え町職員「疲弊」
 南部の海岸沿いに6町が並んでいた海部郡。 合併は当初、東西3町ずつまとまる予定だった。 西側は順調に合併したが、東側は調印後に暗礁に乗り上げ、2町だけが合併。 取り残された形の牟岐町は役場の8課3室を4課にし、管理職手当を減らし、課長職7人が降格。 何とか単独でやっているが、仕事の種類も増え、職員のストレスは増しているという。

http://mytown.asahi.com/ehime/news.php?k_id=39000000703120005