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2007年03月11日(日) 00時00分

住民投票 移駐「反対」から1年 市、どこまで貫ける?読売新聞

市議会本会議で厳しい表情を見せる井原市長(8日)
 合併前の岩国市民が、在日米軍再編に伴う米海兵隊岩国基地への空母艦載機移駐計画に「ノー」を突きつけた住民投票から12日で1年。計画撤回の展望が見えない中、徐々に容認に傾きつつあった民意は、市中心部で宅地造成が進む愛宕山の米軍住宅転用問題で、再び反発の灯がともったかに見える。だがそれは、巨額赤字の解消という「振興策」と表裏一体だ。焦点は、岩国市がどこまで移駐反対を貫けるかに移った。

 ■包囲網

 住民投票の余韻は、長くは続かなかった。第2ラウンドとなった昨年4月の市長選で井原勝介市長が勝利したのを見届けると、国は5月、在日米軍再編で米国と最終合意、閣議決定へと進めた。

 これを受け、県と、周辺の周防大島、和木両町は移駐「容認」に転換。県は米軍住宅への転用を視野に入れ、巨額の赤字が確実な愛宕山宅地造成事業の見直しに着手した。国も12月、市の新庁舎建設補助金をストップするなど財政圧力を強め、市民からも「移駐容認」の声が上がり始めた。反対を貫く井原市長を取り巻く包囲網は、徐々に狭まりつつある。

 ■新年度予算案の行方

 当面のヤマ場は、開会中の市議会。移駐を容認する市議たちは「国の新庁舎建設補助金見送りは市長の責任」と批判し、市が、合併特例債で不足分を穴埋めした新庁舎建設費を新年度一般会計当初予算案に盛り込んだことに反発している。

 昨年10月に誕生した34人の市議会は、容認派と反対派が拮抗(きっこう)しているが、反対派から議長が出たことで、容認派の17人が絶対多数となった。23日の最終本会議で、当初予算案が否決される事態も予想される。

 予算案の否決は事実上の市長不信任。新庁舎の建設中断は避けられなくなるが、国は「容認しなければ補助金は出さない」との意思を明確にしている。

 ■愛宕山を巡る攻防

 その後は、愛宕山問題が佳境に入る。県は3月議会後をめどに、事業中止の決断を市に迫っているが、中止はそのまま米軍住宅転用を意味する。移駐容認に転じない限り、市が受け入れることはないとみられているが、県議会の意向を受けて赤字解消を目指す県は、用地の分割も示唆しており、攻防は予断を許さない。

 ■公明党の動向

 米軍再編事業の進み具合に応じて、関係自治体に再編交付金を段階的に配分することを定めた在日米軍再編推進特別措置法案が、今国会で成立する見込みだ。これを受けて、政権与党ながら移駐反対の姿勢を崩していない公明党議員団(4人)がどう出るかも注目されている。

 同党は今議会で、井原市長の姿勢を厳しく追及、愛宕山事業は中止すべきだとの見解も打ち出した。移駐問題で方針転換すれば市議会は大きく容認に傾き、一部で取りざたされている6月議会での移駐容認決議も現実味を帯びてくる。

 旧岩国市の住民投票から1年を迎えるのを前に、投票で示された意思を貫こうと、「住民投票の成果を活(い)かす岩国市民の会」が10日、岩国市民会館で市民集会を開いた。市民ら約200人が参加。愛宕山宅地造成事業の中止と米軍住宅転用問題をテーマに講演があり、「米軍住宅転用を絶対に許さない」などとする集会アピールを採択した。

 講演した本田博利・愛媛大教授(行政法)は、同事業実施の根拠となる新住宅市街地開発法について解説。「事業中止を認める明文規定はない」と指摘し、米軍住宅への転用についても、「国が事業を引き継ぐことは可能だが、米軍の宿舎は事業の対象外。開発した住宅地を購入できるのは原則、個人で、国はその資格がない」と述べた。

 参加者の一人が「住民投票から1年だが、あの時に表された市民の思いは変わらない。国や県は、市民、県民の声にこそ耳を傾けて政治を行って」と集会アピール案を読み上げると、大きな拍手がわき起こった。


集会アピールを採択する参加者たち

 「住民投票の成果を活かす岩国市民の会」は15日、県庁を訪れ、愛宕山の米軍住宅転用に反対する申し入れを行う。愛宕山問題で、市民が県に直接抗議するのは初めて。10日の集会参加者に抗議カードへの記入と同行を呼びかけており、当日は、錦帯橋からマイクロバスで県庁へ向かう。会によると、県側は基地担当の奈原伸雄・総務部理事が応対する予定という。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamaguchi/news001.htm