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2007年03月11日(日) 00時00分

出陣 07都知事選 <3> 都市に刻む『共生の思想』 東京新聞

■黒川(くろかわ) 紀章(きしょう)氏(72) 建築家

 「石原氏は今が引き際。花道をつくりたい」

 側近政治、四男の都政への登用—。「親友」の石原慎太郎知事に注がれる都民の厳しいまなざし。だが、出馬の理由はそれだけではなかった。

 建築家“世界のクロカワ”が五十年間、主張し続けてきた人間と自然との「共生の思想」。その理想とかけ離れた方向に突き進んでいるように見える石原都政への強い不満がそれだ。

 一九七五年の都知事選では、現職の美濃部亮吉氏に挑む石原氏を応援した。だが「意見の違いがだんだんはっきりしてきた」

 首都機能移転の推進派として出席した九九年秋の衆院国会等移転特別委員会。そこに都知事の石原氏が反対派として座っていた。

 「首都のポジションにこだわり、一極集中はますます進んだ。都心には金持ちのための巨大なマンションやバブル企業の本社ビルばかり立った。損をしているのは都民」と憤る。

 「建築家は思想家であるべきだ」が持論。五八年に「機械の時代から生命の時代へ」の変化を見通し、その理論を形にした自然共生型の都市を中国やカザフスタンで設計してきた。

 「首都機能の一部を移転し、霞が関の官公庁跡地を有効利用して公園や低所得者用の住宅を造る」

 石原氏が進める二〇一六年夏季五輪の招致の中止を掲げるのも、「大規模再開発につながる」からだ。

 都の五輪招致計画に携わる建築家の安藤忠雄氏については、「唯々諾々と引き受けちゃってるところが、師匠としての私の不徳のいたすところ。申し訳ございません」。

 話のスケールの壮大さと、軽妙洒脱(しゃだつ)な語り口が、時に聞き手を惑わせる。出馬会見の際、「四月八日の投票日はパリにいる」「年間三分の一は海外に滞在」などと発言。有権者から立候補の“本気度”を疑う声も出た。

 すると、その後に発表したマニフェスト(選挙公約)では一転、「週四日都庁で執務する」と明記。「四年間は知事中心に動く決意をした」と話した。

 財政再建の一端を担うため、公用車は使用しないことも公約に載せる。「石原さんより印税収入があり、預金もびっくりするぐらいある。昔から(高級車の)センチュリーを使ってますから、運転手付きで」

 たまには自分でも運転すると付け加え、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。「どうしても日曜日に都庁で執務する時は目立たないようにポルシェで。ポルシェのオープンカーで」 (高橋治子)

 1934年4月8日、名古屋市生まれ。京都大学建築学科を経て東京大学大学院博士課程修了。主な建築作品は国立新美術館、中銀カプセルタワー、クアラルンプール新国際空港、ヴァン・ゴッホ美術館新館(オランダ)など。日本芸術院会員、日本景観学会会長を務める。文化功労者。妻は女優の若尾文子さん。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tko/20070311/lcl_____tko_____000.shtml