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2007年03月11日(日) 00時00分

教委への国権限 強化 中教審答申 『分権に逆行』併記 東京新聞

 地方教育行政法など教育関連三法改正について審議してきた文部科学相の諮問機関・中央教育審議会は十日、国の教育委員会に対する是正指示について「必要であるとの意見が多数」として、国の権限強化を認める答申を伊吹文明文科相に提出した。「地方分権に逆行」など地方自治体側の意見も併記。最終的な方向性は十二日に安倍晋三首相が判断するが、国の是正勧告・指示権を盛り込んだ改正法案が、月内にも今通常国会に提出される見通し。 

 一九九九年の地方分権一括法で国から教委に対する是正要求権や教育長の任命承認権が削除された経緯があり、勧告・指示権を盛り込むことに地方自治体側は強く反発。この日も委員である石井正弘・岡山県知事は答申案を了承しなかった。

 答申では国が是正指示を発動する事例として「児童生徒の生命や身体の保護のため緊急の必要がある場合」「憲法に規定された教育を受ける権利が侵害され、教育を受けさせる義務が果たされていない場合」などを挙げた。発動にあたり「専門家などで構成される調査委員会等の報告を参考に対応すべきだ」などの意見があったことも付記した。同省が示していた改正骨子案にあった教育長任命への国の関与は、賛成意見がなかったことから「これを採らないことが適当」とした。

 高校の未履修問題を受け、同省の骨子案では首長の求めに応じ、教委が私学の指導などができるようにするとしていたが、私学関係の委員などから反対が強く、答申では「助言」「援助」にとどめた。

 答申では、教育委員に保護者を必ず含むことなども盛り込んだ。このほか学校教育法改正では、教育基本法改正に伴い「わが国と郷土を愛する態度」を義務教育の目標に盛り込むことを提言。教員免許法改正には十年ごとの免許更新制導入などを盛り込んだ。

■教育行政 流れに変化も

<解説> 国が教育委員会に対して是正勧告・指示できるよう権限を強化する地方教育行政法改正は、約十年にわたる教育行政の地方分権の流れを変える可能性がある。

 中教審は一九九八年、国による教育長の任命承認制度の廃止を答申。翌九九年の法改正では、国から教委への是正要求も削除された。二〇〇五年には教員人事権について都道府県教委から中核市などに移譲することが適当と答申している。

 一方、政府の教育再生会議が国の権限強化の方向性を提言したのは二月五日のことだ。この日を含め、再生会議が教委改革について集中的に議論したのは二回。参院選を前に、安倍政権が目に見える教育改革を必要としたという事情が透けてみえる。いじめ問題や高校の未履修問題などを理由に、国の権限強化の必要性を強調してきた伊吹文明文科相の思惑とも合致した。

 いじめ、未履修で浮かんだ教委の問題点は、学校現場が抱える課題を共有し、ともに解決に向かう当事者意識の薄さだ。その処方せんが国の権限強化なのかどうか、「そもそも論」を封印し答申を急いだ審議では答えは浮かびようがなかった。

 文科省は、市町村教委や学校などの現場の裁量権を拡大する方向性に変わりはないと説明している。しかし、教職員の人事権の中核市などへの移譲の話が進んでいないのは、財源の移譲が伴っていないのが大きな要因だ。困難な部分の道筋がついていない中、国の権限強化が先行する。

 〇五年の中教審答申は教育を首長直轄とはせず、教育委員会という制度を存続させるべき理由として「政治的中立性や継続性・安定性の確保」を挙げた。しかし、今回の短期間での制度変更は政治そのものにみえる。 (社会部・早川由紀美)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070311/mng_____sya_____006.shtml